日本の企業のうち99.7%は中小企業で、地方圏に立地する企業に限ると99.9%になる。そのなかで地方の小規模企業の従業員数は平均4人、中規模企業のそれは40人前後だ。これら中小企業ではシステム担当は存在しないことが多い。中小規模であればクラウドサービスやパッケージの導入で十分対応が可能だが、本格的なシステム導入を検討する際には、SIerに一任することになる。そしてそのまま、SIerの都合でハードウェアは更改させられ、OSのメンテナンス中止に伴いシステム対応を余儀なくされる。その結果、最新のメリットを得ることができない、経営のお荷物として君臨するシステムができあがる。
最近、多くのシステム更改に関する相談をいただくが、その内情はほぼ同じである。10年以上前に導入したシステムは、数年ごとにマイグレーションプログラムという生命維持装置のような処方をされて、機能を維持している。新しい機能は別途システムをつくり、インターフェースが複雑に絡まりスパゲッティ状態になっている。こうしたシステム更改で既存ベンダーは既得権を振りかざし、ユーザーのためのシステムとは程遠い更改が行われる。そしてまた、エンハンスの呪縛のサイクルに入らされるのだ。
SIerはユーザーに代わり、経営の基盤として最適なソリューションを提案する義務がある。もちろん、その時々の選択は間違っていなかったのだろう。ただ、その場しのぎの対応が歪みになってしまった時は、顧客の利益を一番に新たな提案を行うべきだ。売り上げが減るかもしれないが、そこはプライドをもって長期目線で企業のパートナーとなる覚悟で臨んでほしい。
当然のことだ、といいたい方も多いだろう。しかしここ数年、地方の企業で、それが普通なことではない実態を私は目にしてきた。怒りを通り越して、呆れてしまう対応がまかり通っている。
日本のGDPの半分以上は地方が稼いでいる。日本経済が活力を得ていくには、地方企業の活性化が不可欠なのである。つまり地方企業の生産性が向上しなければならない。地方は中小企業が多くを占めるが、ITに対する準備は整っていない。ITベンダーが地方企業のお荷物になることは、日本経済に大きな負荷を与えていることと認識してほしいと思う。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。