テクノスジャパン(吉岡隆社長)は、SAPのERP(統合基幹業務システム)製品を活用したシステム構築に強いSIerである。最新バージョンのSAP S/4HANAへの移行ニーズが高まるなか、SAP技術者の不足が顕在化。これに対応するため、同業の中堅SIerと足並みを揃えるかたちで、中国・長春への海外オフショアソフト開発をスタートさせた。発注内容をSAP領域に絞り込み、まとまった量を発注することで中国側の人材を確保しやすいようにする。業種テンプレートも充実させて開発効率を高める施策を打つ。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 テクノスジャパン
所在地 東京都新宿区
設立 1994年4月
資本金 5億6252万円
従業員数 約360人
事業内容 今年度(2019年3月期)連結売上高は、前年度比18.1%増の64億円、営業利益は同8.4%増の8億円、営業利益率12.5%を見込む。今年6月に米SIerのリリックをグループに迎え入れ、北米でのビジネス拡大に向けてもアクセルを踏む。
URL:https://www.tecnos.co.jp/
S/4HANAの“移行需要”に備える
田中琢馬
執行役員
SAP S/4HANAへの移行需要を受けて、SIer同士でS/4HANAの技術者を奪い合う様相を呈している。テクノスジャパンは従業員数約360人の中堅SIerであり、“特需”に合わせて自社の社員を増やすにも限界がある。そこで、着目したのが中国での海外オフショア開発である。
中国の経済発展で人件費は高騰しており、中国国内のITニーズの増大で人材の確保もままならなくなっている。しかし、「特定の技術領域に特化して、継続的な発注を行えば、中国のSIerもそれに応じた人材を確保してくれる」(テクノスジャパンの田中琢馬・執行役員経営企画室長兼アライアンス室長)との感触を得た。
テクノスジャパン1社だけでは、発注のボリュームや継続性に限界があるため、「SAPを得意とする中堅の同業SIerにも声をかけて」(田中執行役員)発注量を確保する枠組みづくりに努めている。こうした横の連携によって、ある程度、発注量のメドがたったことから、今年に入ってからSAP関連の開発案件を中国・長春のオフショア会社に発注。中国オフショア開発をスタートさせた。
長春は中国東北地区の内陸部に位置しており、「上海やなどの沿岸部に比べれば人件費は比較的安定している」。だが、今回については開発費の削減よりも、むしろS/4HANAの開発能力を持った技術者の確保に主眼を置いた。「優秀な技術者を30人、50人単位で確保しようと思ったら、中国オフショア以外の選択肢はあまりないのが現状」と、田中執行役員は話す。
テクノスジャパンは独立系SIerのなかでは、SAP認定技術者数でトップクラスであり、沖縄にニアショア開発拠点も確保している。それでも、S/4HANA移行のピーク需要に対応するには、中国オフショア人材も確保しておくのが合理的だと判断した。「SAPという共通言語と、発注量の安定」により、中国オフショアを有効に活用していく。
業種テンプレートで生産性を向上
もう一つ、テクノスジャパンが独自で開発しているSAPのERP導入テンプレート「Factシリーズ」を活用することで、生産性を高めるアプローチにも力を入れる。Factシリーズは、業種別に食品や消費財、小売り、化学、精密機械の主に五つから構成されている。まずは、食品と消費財のテンプレートをS/4HANAに対応させ、ほかの三つについても「順次S/4HANAに対応させることを検討している」。
Factシリーズは、さまざまな業種・業態にSAPのERPを構築してきたテクノスジャパンのノウハウをベースに開発。生産性や品質を高めることに力点を置くとともに、豊富な業務シナリオによるプロジェクト期間の短縮にも役立つ。一つ一つのプロジェクト期間を少しでも短期化できれば、それだけ早く次のプロジェクトに技術者を回せるようになり、限られた人手でより多くのプロジェクトをこなすことができる。
テクノスジャパンは今年6月に、米国の従業員数約80人のSIerであるリリックをグループに迎え入れている。リリックはERPにオラクルのNetSuite(ネットスイート)、営業支援/顧客管理などのフロントエンドにSalesforce(セールスフォース)をベースとしたSIに強みを持つ。開発拠点はインドに置いており、テクノスジャパングループ全体でみると、オフショア委託先の中国、ニアショア開発拠点の沖縄、インドのリソースを活用できることになる。
しかし、オフショア/ニアショア活用は、SAPならSAPに開発領域を絞り込んでいくほうが効率はいい。米国ではNetSuite×Salesforceの組み合わせでインドを活用し、国内ではSAPを軸に沖縄や中国を活用する。「ベースとなる業務アプリケーションを開発拠点やオフショア委託先との“共通言語”とする」ことで人材を確保しやすくしたり、開発生産性を向上させる。こうした取り組みによってより多くのプロジェクトを効率よくこなしていく。