客先常駐や二次請け、三次請けは、むしろ「悪」だと思ってやってきた――と話すのは、クリエーションライン創業者の安田忠弘社長だ。同社の昨年度(2018年3月期)の売り上げは前年度比で実に70%増。今年度も同様の高い伸びを見込む。そんな同社は、06年の起業当初はこれといった特徴もなく、数ある中小SIerの中に埋もれそうな存在だった。転機が訪れたのはクラウドとOSS(オープンソースソフト)による“パラダイムシフト”に直面した時だった。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 クリエーションライン
所在地 東京都千代田区
設立 2006年1月
資本金 約2億2000万円(資本準備金を含む)
従業員数 約90人
事業内容 先進的なOSSを活用したIT基盤の構築に強いSIer。Chef(シェフ)やKubernetes(クーベネティス)などでは、国内で率先してパートナー認定を取得している。取締役の一人を米国西海岸に常駐させ、最先端の技術をいち早く採用。付加価値の高いSIビジネスに生かしている。
URL: https://www.creationline.com/
他の中小SIerに埋もれる存在だった
安田忠弘
社長
クリエーションラインの事業の方向性を決定づけたのは09年。情報処理推進機構(IPA)が行った、あるOSSの実証・評価事業だった。当時、話題になったクラウド基盤管理ソフト「Eucalyptus(ユーカリプタス)」に詳しいベンダーをIPAは公募。それに採択されたことで業界内外での知名度が高まり、「先進的なOSSを活用したIT基盤構築に強いSIer」とのイメージが出来上がった。
安田社長が06年にソフトバンクグループから脱サラして起業した当時は、「星の数ほどある中小SIerの中に埋もれないようにするには、どうしたらいいのかを必死で考えた」という。米国では、後のメガクラウドに成長するAmazon Web Services(AWS)が登場し、インターネット回線が実用に耐えうる状況になってきていたことから、「これからはクラウド上で開発、運用する時代がやってくる」と直感。クラウドにネイティブ対応したSIビジネスを伸ばしていく方向へと舵を切っていった。
だが、当時はまだネット上に自社の大切なシステムを置いてもいいというユーザー企業はほぼ皆無。IPAの評価事業に採択されたEucalyptusは、客先に設置したサーバーにクラウド環境を構築できるOSSであり、同社はそれを活用し、当時のAmazon EC2と連携できることを実証するなど、逆風の中でノウハウを蓄積してきた。その後、AWSが日本に進出したことで、パブリッククラウドを活用する流れが加速。クラウドの初期段階からクラウド基盤の開発や、同基盤上でのアプリケーションの開発・運用を請け負い、ビジネスが急速に伸びていくことになる。
OSSは、さまざまな業務アプリケーションやサービスの共通基盤となる領域で盛んに開発が進められた。しかし、それらの活用には、高い技術力が求められる。クリエーションラインは、OSSを活用したIT基盤に強いSIerとして、「他の中小SIerとの差別化を明確に打ち出していく」ことにした。
下請けの利益率では到底足りない
幸いなことに、クラウド基盤を支える新しいOSSが次から次へと開発されたことが追い風となり、クリエーションラインは、徐々に特色あるSIビジネスを展開することができるようになった。とはいえ、少ない社員数の中で、最新のOSSを学び続けるのは容易なことではない。
そこで、安田社長は「稼働時間の30%を研究開発に充てるルール」を実践した。しかし、これでは、通常の客先常駐や下請けの粗利率で利益を出すことはほぼ不可能だ。実際の“稼ぎ”に割り当てている時間が稼働時間の7割しかない中で利益を出すには、元請けで、しかも付加価値の高いSIを手掛ける必要がある。中小SIerにとってハードルは高いが、クラウドの普及という大きな潮流と、先進的なOSS活用の需要は、そうしたハードルを上回る大きさがあった。
とりわけOSSは、グーグルやフェイスブック、ツイッターといった大手サービスベンダーが、自社で開発してきたソフトを次々とOSSとして切り出し、コミュニティーでの開発に任せる戦略を展開。米国を中心に開発されるOSSをいち早く取り込んで、ITインフラの構築に適応することで、顧客のニーズを掴むことに成功した。
例えば、グーグル発のOSSでクラウドオーケストレーション/コンテナ管理の「Kubernetes(クーベネティス)」は、日本の他のSIerに先駆けてパートナー認定を今年取得。Kubernetesのパートナーになっているのは、国内ではクリエーションラインとNTTデータだけである。ほかにも、12年から取り入れたサーバー構成管理のOSS「Chef(シェフ)」は、ヤフーの約5万3000台のサーバー運用に用いた。クリエーションラインはそのSIを担うなど、大型案件の受注も相次いだ。
クラウドと基盤系OSSの隆盛というパラダイムシフトの波にうまく乗ることで、特色あるSIビジネスを展開。これが他社との差別化となり、より付加価値の高い案件の獲得につなげている。