「2025年問題」は以前から聞いていたが、ここにきて「2025年の崖」が話題になっている。経済産業省が9月7日付で発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」をご覧頂きたい。
2025年問題が老齢化の進む人口構成に起因するのに対して、2025年の壁は時代遅れのソフトウェア技術に縛られて老朽化した情報システムに起因する。どちらも、これまでの経済成長を担ってきた人々やそれを支えてきた情報システムが、これからの時代には足枷(あしかせ)になるという主張である。
“問題”という言葉には何か解決策を考えようというポジティブなメッセージを感じるが、“崖”には「淘汰される」というネガティブなメッセージが込められている気がする。経産省の危機意識の高さがうかがえる。
20年ほど前にASPというビジネスモデルが市場で認知された頃から、情報サービス産業の構造的改革が必要だということは誰もが認知していた。しかし、技術者派遣とは名ばかりの人貸し業を続け、「最近の技術者は質が悪くなった」とか「派遣では技術者が育たない」と愚痴を言いながら、売り上げの優先という呪縛から逃れられず、事業改革を先延ばしにしてきたことを自覚している経営者は少なくないだろう。また、自社開発ソリューション事業を続けてきたベンダーの中には、クラウドサービス化というハードルを越えるのに苦慮している人たちも少なくない。
それでは、私たちベンダーは、この崖から溢れ落ちないようにするため何をすべきだろうか?私自身、20人規模の受託開発事業をライセンス製品販売事業に100%変えるのに10年ほどを要した。一番大変だったのは、受託開発という顧客の要望に応える受動的な仕事から、顧客に対してライセンス製品を提案するという能動的な仕事へ変わるための社内の意識改革である。
特に40歳前後の熟練技術者の意識を変えることに大変苦労した。この経験から思うことは、「DXレポート」が示す7年という期間は、個々のベンダーが単独で事業改革を行うにはあまりに短い点だ。となれば、事業的性格の異なるベンダー同士が互いの事業を補うかたちで、新たな事業モデルの構築を模索するよりほかに道はないのではないか?
一般社団法人 みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立ち上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。