AI(人工知能)を活用するシステムの受託開発。ジェニオの石井大輔社長が、会社設立時に選んだ事業である。シリコンバレーでAI関連のビジネスが立ち上がり始めていることに着目した。AIの看板を掲げると、国内では競合がなく、先進的な企業からの問い合わせが次々と舞い込んだ。軌道に乗ったAIの受託開発だが、石井社長は自社サービスの開発と提供へ大きく舵を切り始めている。シリコンバレーから学んだ「超スケールするもの」を提供するためだ。そのため、最初からグローバル展開が視野に入っている。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 ジェニオ
所在地 東京都渋谷区
設立 2014年11月
社員数 4人
事業概要 AIを活用した多言語対応のテレビ会議システムの提供、人材紹介、AI関連の受託開発
URL:http://www.jenio.co/
AIブームを先取り
石井大輔
代表取締役社長
商社を経て2011年に独立した石井社長は当初、マーケティングやeコマースなどのコンサルティングを中心に活動していた。転機となったのは、15年にeコマースのトレーニングを受けに行ったサンフランシスコ。現地で勧められたのは「eコマースにイノベーションはない。これからやるならAIだ」ということ。実際、サンフランシスコやシリコンバレーでは、AIが盛り上がっていた。
石井社長はAIのエキスパートではなかったが、帰国後に手探りながら事業を開始する。まずは、AIの受託開発を担う「Team AI」を掲げ、自社サイトでアピールすることから取り組んだ。これが当たった。
「AI関連のサービスは、まだIBMのWatsonくらいしかなく、受託開発をうたうSIerはほとんどなかった。そういったこともあって、ウェブサイトを見た企業からの問い合わせが、週に何件も届くほどだった」と、石井社長は当時を振り返る。とはいえ、ジェニオには複数の開発案件を請け負うような態勢がないため、協業先を探しながら対応していった。
コミュニティーで情報交換
AIに対する要望は、ユーザー企業によって多種多様。AI事態も日々進歩しているため、受託開発を担うに当たっては、より多くの情報を収集することが求められる。ところが、その範囲は広く、小規模の企業では対応できない。情報を入手する方法も限られる。
こうした問題の解消に向け、石井社長はTeam AIを看板に勉強会を16年7月に開始。当初はカフェを会場に小規模で始めたが、AIブームに乗ったこともあり、現在では5000人規模のコミュニティーへと発展している。
人材市場では、AI系のエンジニアの人気が高く、不足している状況にある。そこでジェニオは、5000人規模に膨れ上がったTeam AIのコミュニティを生かし、人材紹介ビジネスを開始。受託開発と並ぶ、同社の主力事業となっている。
自社サービスで世界を目指す
受託開発と人材紹介の事業が軌道に乗ったジェニオだが、今は受託開発を減らし、自社サービスの開発と販売に注力している。その理由について、石井社長は次のように語る。
「受託開発は経営が安定するものの、ビジネス規模を大きくするのが難しい。サンフランシスコで学んだビジネススタイルは、超スケールするものかどうか。それにはグローバルに展開できるサービスが必要。リスクはあるが、大きいところを狙いたい」
自社サービスを開発するに当たり、社内で100以上のアイデアを出し、そこから選んだのがリアルタイム翻訳のAIエンジンを積んだビデオ会議サービスだった。「ビデオ会議システムは、世代交代の時期を迎えている。これまでの製品は、AIを搭載していない」と石井社長。「Kiara」と名付け、10カ国語対応版を18年10月にリリースした。将来的には120カ国語対応を予定している。
受託開発から自社サービスへと舵を切ったジェニオだが、事業の中心にAIがあることは変わっていない。「AIはエキサイティング。あらゆる分野で定着していく」と、最も将来性がある技術として取り組んでいる。
Team AIの勉強会には
外国人エンジニアも多数参加
Team AIでは週3回のペースで実施している勉強会。
国内で働く外国人の参加も多い
約5000人のコミュニティー、Team AIは週3回開催している勉強会をきっかけとして集まったメンバーだ。渋谷を中心に活動しているためか、海外出身者も多く、勉強会ではさまざまな言語が飛び交う。シリコンバレーにいるかのような雰囲気を味わうことができる。勉強会のテーマは約9割がAIだが、量子コンピューターやブロックチェーンなどの最新テクノロジーも対象。エンジニアのほか、研究者の参加もあり、刺激的な情報交換の場となっている。