著作権法の一部を改正する法律が、今年5月に成立した。他人の著作物を利用する時は、その著作権者から許諾を得ることが必要であると著作権法は定めているが、例外がある。
この例外にあたる制限規定が、今回、時代に合わせて拡張された。私が最も注目しているのは教育の情報化に対応した例外、つまり制限規定が整備されたことだ。
今までも授業のための複製と場所の異なる学校間などで、同時授業のための公衆送信に限り著作権者の許諾なく行うことができた。今回の改正では、学校の授業に関わる利用であれば、授業時間だけでなく、例えば予習・復習用に教師が他人の著作物を用いて作成した教材を、ネット経由で生徒の端末に送信する行為についても、教育機関が補償金を支払うことで個別の許諾を得ることなく行えるようになる。
学校現場には、許諾を得ることで著作物を利用するという原則と、許諾なく利用できる例外(補償金の支払いが必要な場合も含む)について、整理して周知される必要がある。そして、このこと自体が著作権教育の格好の教材になるはずだ。許諾を得る行為は契約そのものだから、児童生徒に法律と契約の概念を教える教材にもなる。
法制度と契約について意味を知れば、コンテンツを生み出す創作者(著作権者)のために、気持ち良く適切な対価を支払おうとする社会全体の機運につながるのではないかと期待もしている。
さて、学校での著作権教育に期待する一方、社会においても、著作権教育を充実させる機運を感じている。しかし現状においては、著作権法をどう利用するのが正しくて何が間違いなのか、よく分からないという方が多いのが実態だろう。
そうした中、地域社会で行政書士が、著作権者に利用許諾を求める権利処理の相談窓口になるなど一定の役割を果たし始めている。先日も九州の行政書士会とコンピュータソフトウェア著作権協会が連携した共同イベントで話し合いをしたところだ。
こうしたことが超高度情報社会で著作物を正しく利用するための法教育につながり、情報モラル育成にもなるだろう。学校や社会で、少しずつ動きが出始めている。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。