再生可能エネルギー大量導入の促進とFIT(固定価格買取)制度の抜本的改革に関する議論が、経済産業省で精力的に行われている。FIT制度からの卒業、つまり、再生可能エネルギーの自立化施策に向けた議論である。
太陽光や風力は発電能力に不安定要素を持っており、これを吸収可能な情報共有システム、それを用いた調整力市場の創生・形成、さらには蓄電池インフラに関する検討が必要である。従来の発・送・配電が一体化した市場ではなく、三つの市場が複雑に結合した新しいビジネス構造の形成を活発化しなければならない。
新しいビジネス構造の下では、電力を利用する企業は多様な選択肢から比較検討することが可能となる。さらに、今後導入されるコネクト&マネージシステムは、情報システムをフル活用した新しい電力市場の形成を先導する可能性を持っているといえる。
そうした中、筆者は、以下のような提案を行った。
(1)ブロードバンドを実現したe-Japanの際に行われた「通信設備の公正な条件に基づいた、解放による新サービス・新事業形態の創生」と同様の改革を電力業界に適用
(2)データセンターの戦略的な利用(政府・自治体のITシステムのクラウド移行を含む)。特に電気の需要量を制御するDR(デマンドレスポンス)において、需要を増やす「上げDR」に代表される蓄電機能を用いた発電容量の不安定性への対応と、送配電システムのコスト削減と新ビジネス形態の創造
(3)「一事業所・一引込線」のルール緩和
こうした討論が進む中で、オランダのアムステルダムアリーナにおける電気自動車の「再生」リチウムイオン電池を用いたスマートグリッドシステムが紹介された。このアリーナは、系統網から電力を受電、リチウムイオン蓄電池システムを介して地域への給電事業を行う。このため、地域配電網と系統網との間で周波数同期の問題がない。災害時には、地域への配電が系統配電網とは独立して実行できるため、高品質の災害対応能力を実現することが可能となる。
このようなシステムは、上げDRと整合性があり、平時は競技場、災害時には避難所として機能する。まさに、マルチプル・ペイオフ型システムの事例であり、データセンターが持つべき施設・機能の有効利用と捉えることができる。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。87年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。