ビジネスの世界で、利用者が定額で利用権を取得して使い放題のサービスを利用するサブスクリプションが裾野を広げている。「所有」から「利用」へという流れの本質は何だろうか。
モノやコトを「所有」して良いことは、いつでも自分が使いたいときに使うことができるということである。いざ使おうと思ったら、ほかの人が使っているので順番待ちということがない。
もう一つは、所有欲が満たされるということである。大して使うわけでもないけれど、人がうらやむものを持っているということで高揚するという欲だ。「いつかはクラウン」というコピーは、所有欲を掻き立てる名コピーだ。
そんなクラウンを擁するトヨタ自動車は11月1日、車のサブスクリプション・サービス「KINTO」を発表した。月ごとの定額の支払いで好きなときに乗りたい車を自由に選び、利用するというモデルだ。
自動車会社が変わるだけでなく、それに付随する保険会社や車検ビジネス、駐車場ビジネスも変革を余儀なくされるであろう。
サブスクリプション化の流れは、衣食住の分野にも広がっている。洋服は毎月定額で借りることができ、食材も産地から旬のものが送られてくる。住環境では家具や家電のレンタルからはじまり、住居自体も会員になれば提供される物件の中から好きな場所に住んで、また別の場所に移り住むというサービスも出てきている。
サブスクリプションは、売り手にも定額の売り上げをもたらすので魅力的だ。しかし、難しい点もある。車や洋服そして住居など、好みやトレンドがあるものは人気の商品に利用が集中し、そうでないものは見向きもされない。絶えずワクワクするモノの在庫を潤沢にし、人気のないモノは整理しなくてはいけない。
所有から利用へ。その本質は、モノを使っていない期間は、モノは価値を生まないということへの気づきではないだろうか。その課題解決にICTとビジネスモデルが一役買ったかたちだ。
価値を生まない時間や行為は、私たちの周りにまだまだたくさんある。これらを整理していくことで、より価値の高い時間の過ごし方へとシフトしていく。私は、そう考えている。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
略歴

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。