ユーザー企業に提案できないSIerのままで生き残れるのか──。さくらコミュニケーションの桑村時生・取締役IT事業部部長は、こうした危機感から中堅・中小企業が抱える課題を解決するビジネススタイルの割合を高める方向へと舵を切った。手始めに、さくらコミュニケーションが本社を置く東京都小平市周辺の企業を訪問したが、反応は厳しいものばかり。魅力ある提案ができなければ門前払いされてしまう現実を目の当たりにすることになる。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 さくらコミュニケーション
所在地 東京都小平市
設立 2003年8月
資本金 3000万円
従業員数 約60人
事業概要 金融系大型システムの請負開発を得意とするSIer。近年は、中堅・中小企業が抱える経営課題を解決する提案活動に力を入れており、直近の元請け比率を2割程度にまで高めた。桑村時生取締役は、JASIPA(日本情報サービスイノベーションパートナー協会)理事を務める。
URL:https://www.sakura-communication.co.jp/
客先常駐の手堅い収益は魅力だが…
桑村時生
取締役
さくらコミュニケーションは、金融顧客の勘定系大規模システムの改修などの案件を得意とする。元請けの大手SIerの協力会社として客先常駐で仕事をするスタイルが大半を占めてきた。金融系のシステム開発は、「品質要求が厳しいと同時に、手堅い収益が見込める魅力的な仕事」(桑村時生取締役)とみる。
その一方で、「新規ビジネスの創出」や「デジタル戦略の推進」といった提案ができてこそ、「SIerとしての競争力を高められる」と桑村取締役は考えていた。しかし、こうしたスキルは、客先常駐のビジネススタイルのままではなかなか身に付かない。
同社が本社を置く小平市周辺、多摩地区を見渡してみると、中堅・中小企業が点在している。そこで、「まずは地場の企業から課題の聞き取り」を始めた。しかし、返ってくるのは「間に合っています」「ウチはそういうこととは縁遠いから」などと、つれない返事ばかり。外部のSIerに発注できるほどのIT予算がない企業が大半で、「地場企業向けのSIの難しさを痛感」した。
さくらコミュニケーション側にも問題があった。経営者に直接提案する経験が乏しかったため、相手の予算感やニーズを掴み切れず、結局は「システム開発の案件はありませんか?」といった“御用聞きスタイル”になっていた。
思い悩む末にたどり着いたのが、さくらコミュニケーションと同じような中堅・中小のSIerが集まる団体、JASIPA(日本情報サービスイノベーションパートナー協会)への参加だった。一足先にユーザー企業への直接提案に取り組んでいる先輩SIer経営者に話しを聞いてもったところ、中堅・中小企業向けのビジネスで各社ともに同じような問題意識を持っていることが分かる。「悩んでいるのは自分だけではないと分かっただけでも、十分に心強くなった」と話す。
提案力で元請け比率2割に高める
先輩経営者からの助言もあって、営業範囲を23区内の都心部に広げていくと同時に、週1回のペースで中堅・中小企業の情報システム部門の機能を代行する提案を行ったところ、注文を徐々に獲得できるようになった。フルタイムでIT専門要員を雇う余力はないが、週1回の予算なら出せるというニーズを掴んだからだ。
さらに、台湾のソフト開発会社アイモバイルマインドと業務提携を行い、既存の業務システムをスマートフォンから操作できるミドルウェア/スマホアプリ「ISAI APP Platform」の国内販売を昨年にスタート。例えば、既存の販売管理とのつなぎ込みをすることで、外回りの営業マンは手持ちのスマホから在庫状況を見たり、受注報告をしたりできる。ワークフローとつなげば、多忙で全国を飛び回っている中小企業の経営者が、空き時間でスマホから各種承認を行えるというものだ。
既存の業務システムをスマートフォンから操作できるミドルウェア/
スマホアプリ「ISAI APP Platform」の画面イメージ
週1回の情シス機能の代行や、ISAI APP Platformによるスマホ連携は、さくらコミュニケーションにとっては、初めての独自色の強い提案型ビジネスとなった。関連するSI受注も増えて昨年度(2018年6月期)の売上高に占める元請け比率は約2割まで高まる。ISAIについては、国内販売代理店を募って全国展開していく準備も進めている。
また、桑村取締役は再度経営を学び直すために、産業能率大学通信教育課程の経営コースを履修している。もともとは機械科の出身で、ITや経営の経験を積んできたのは社会人になってから。もう一度、体系だった経営学を学び直すことで、「中堅・中小企業の経営者が抱える課題をより的確に解決できるよう努める。ゆくゆくは経営学修士(MBA)も取りたい」と意欲的だ。