組み込みソフトはメーカー向けの仕事ばかりではない――。日新システムズでは、組み込みソフト開発で培った技術を生かし、エネルギー管理システム(EMS)の制御用デバイスやIoT向け無線ネットワークなどの独自商材を開発。離島や地域のスマートコミュニティービジネスに応用したところ、この3年で独自商材関連が売り上げの3割を占めるまでに拡大した。メーカー向けの組み込みソフト開発も大切にしながら、一方で独自ビジネスも伸ばしていく作戦を展開している。(取材・文/安藤章司)
Company Data
会社名 日新システムズ
所在地 京都市下京区
設立 1984年7月
資本金 3000万円
従業員数 約220人
事業概要 日新電機グループの組み込みソフト開発ベンダーで、IoTやエネルギー管理システム(EMS)、IoT向け無線通信の「Wi-SUN」などの分野で強みを持つ。離島や地域向けのスマートコミュニティーで独自ビジネスを展開中。2017年度の売上高は35億9200万円。代表取締役社長の竹内嘉一氏は、組込みシステム技術協会(JASA)会長を務める。
URL:https://www.co-nss.co.jp/
離島や地域で独自ビジネスを展開中
竹内嘉一
社長
組み込みソフト開発は、メーカーの製品にソフトを組み込む仕事が多くを占める。いわば協力会社としての仕事が多い構造にあるが、一方で「自分たちの製品を前面に出してビジネスを行うことも余地も大きい」と、日新システムズの竹内嘉一社長は話す。その一つが、スマートコミュニティーやエネルギー管理システム(EMS)の分野だという。日新システムズでは、組み込みソフト開発で培ってきた制御技術を応用して、離島や地域を主なターゲットとしたスマートコミュニティーで実績を積んでいる。
直近の事例では、沖縄県・宮古島での消費電力のピーク時への対応にEMSを応用。農業で使う地下水の汲み上げポンプの動作に時間差をつけるなどして、ピーク時の消費電力を抑えた。発電設備は消費される電力が最も大きいピーク時に合わせて設計されている。ピーク時以外のときは設備に余力がある状態で、効率が悪い。そこでピーク時を抑えて、消費電力を平準化することで電力設備の最適化が可能になる。
離島全体の消費電力が制御できるようになれば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを取り入れやすくなる。農業用水の汲み上げや給湯器といった比較的大きな電力を消費する機器を制御することで、例えば風力や太陽光が稼働している時間帯にそれらの機器を動かすことによって、ピーク時の消費電力を一段と下げる道筋がつく。
機器の制御には、IoTやエッジコンピューティング、無線技術が役立つ。いずれも日新システムズが力を入れている分野だ。エッジ側で機器を制御し、そこで処理したデータは無線ネットワークを使ってクラウド側へ集約。離島全体の消費電力を統合的に管理する。
ポイントは、こうしたEMSを切り口としたスマートコミュニティーの提案を「当社が主体となって提案できるようなった」(竹内社長)点にある。組み込みソフト開発の技術を生かしながら、エンドユーザーに直接的に提案するビジネススタイルを確立した。
強み生かし大手との競合も避ける
離島をターゲットとしたのは、「都市部のスマートシティー案件は、大手ベンダーがひしめく市場で、中堅・中小の組み込みソフトベンダーが入り込む余地はあまりない」と判断したからだ。都市部ターゲットのスマートシティーではなく、離島や地域のスマートコミュニティーをターゲットとすることで、ビジネスをより主体的に展開できると踏んだ。
日新システムズでは、2016年頃からEMSを切り口としたスマートコミュニティービジネスに取り組んでおり、直近では同分野の独自ビジネスが売上高全体の3割を占めるまでに拡大。事業化に舵を切ってから3年でビジネスを大きく伸ばすことができた。
もう一つ、力を入れているのが、IoTネットワーク向けの省電力広域(LPWA)無線技術の一種である「Wi-SUN(ワイサン)」だ。京都大学などとの産学連携でWi-SUNモジュールを開発したり、技術評価用のパッケージを試作したりと、Wi-SUNをベースとした技術開発を行っている。Wi-SUNは、データをクラウド側へ上げるだけでなく、クラウド側からエッジコンピューターを制御する双方向通信に強いことから「スマートコミュニティーとの相性もいい」とみている。
組み込みソフト開発ベンダーの強みを生かせるEMSやエッジ側のデバイス、IoT系の無線ネットワークと、スマートコミュニティーを構成する技術要素を優先的に押さえてきた。他の業務系SIerに比べた技術的優位性につなげるためだ。さらに離島や地域をビジネスターゲットとすることで大手システムベンダーとも差別化を図ってきた。また、産業用や医療用のロボット分野でも、独自商材の開発が可能だとみている。
21年3月期までの5カ年中期経営計画では、EMSやスマートコミュニティー、ロボット関連などの独自商材を、売り上げの半分程度を占めるまで伸ばしていく。