国土交通省、文部科学省、ソフトバンク、NTTグループほか数十社。そうそうたる顔ぶれが並ぶ。会社名を出しては困るというので伏せるが、これが従業員わずか3人のシステム開発会社が抱えるユーザーだから驚きだ。
この会社は難しい高度な開発のみを行う、いわば高度システム開発を手掛ける。年商は2億円だが利益率の高さは抜群で、都内にある5階建ての自社ビルもキャッシュで購入している。
「もう少し社員を増やしたほうがよいのでは」と社長に提案すると、「私もそう思うが、私レベルのシステム開発能力を持った人間が、今まで3人しか出会えていない。この世界でなかなか良い人材はいない」と語る。
「あいさつ回りなど営業も必要になるでしょう」と聞くと、「次の宇宙開発の入札には必ず参加してほしいなど、事前に連絡があるので、営業は全く必要としない」と言う。そして、入札に参加するとほぼ確実に落札する。
この不思議なシステム開発会社は毎回、名だたる大手のシステム開発会社をなぎ倒し落札する。その理由を社長に聞くと、「大手の社員が10人で一日かけて行う仕事を、うちは30分で仕上げる」と豪語する。全員異才、特種技能の持ち主である。困難な開発にも特殊な技法、ルートを探し出して開発する。この機動力が高く評価されているのだ。
日本の社会は今でも「どこの大学を出たのですか」「どこの会社にお勤めですか」「役職は何ですか」とまだまだ肩書社会で、工業化社会の幻影が残っている。そのため、小学校から有名な学校に通わせ、著名な大学を卒業して、一流会社に入ることが、人生の勝利の方程式のように思われている。
しかし、システム開発の世界は、着想力、構想力、分析力において異才、異能こそが求められる。かまぼこを作る過程では、白身を出すために栄養分が取れてしまう。そのため、また栄養分を加えねばならない。そもそも現在の日本の仕組みが、このかまぼこを作る過程と同じことをしていると批判する。
異才、異能を見つけ出し、その能力を引き出すことが大事なのに、その人材の多くを幼い頃につぶしているのかもしれない。デジタルトランスフォーメーションの時代の今こそ、日本社会の価値観そのものを転換する時ではないか。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。