経済産業省の「DXレポート」は、既存システムの維持に人的リソースと費用がかかりすぎるため、売り上げや利益に直結する価値創造の領域に投資できるIT予算が十分に割り当てられない点を指摘している。「DXレポート」の作成に携わった和泉憲明・情報産業課ソフトウェア産業戦略企画官は、「時代の最先端を行くデジタル技術の領域に人材や資金を、既存領域からシフトさせていくことがDX実現に欠かせない」と話す。(取材・文/安藤章司)
しかし、DX推進で重要な役割を果たすSIerは、DXレポートにおおむね賛同しつつも、部分的には心中わだかまりがある様子をうかがわせる。SIerの多くは、「価値創造の領域にもっと予算を増やすべき」との点において総論は賛成するものの、一方で日本のユーザー企業はシステムの信頼性や安定性を重視しており、そうしたニーズに応えた結果として既存システムにIT予算が重点的に割り当てられているのが実態だと見る。
和泉憲明企画官(左)と佐藤慎二郎課長補佐
最先端のデジタル技術者を増やすという点について、情報サービス産業協会(JISA)の岩本敏男副会長(NTTデータ相談役)は、「ユーザー企業の既存システムを理解することはSIerの技術者の第一歩」と話す。顧客のシステム要望に的確に応えていくSIerのビジネスにとって、技術だけに長けていても、スキルセットとして十分ではないとの見方である。
経産省では、そうしたわだかまりも見越した上で、「変えられるところから変えてくことが大切」(和泉企画官)だと訴える。既存システムの維持費を下げる手法としては、「従来なかったITプラットフォームを新規に構築したり、ある業種で共通して使う業務を共同利用型のサービスとして利用する手法などがイメージしやすい」(佐藤慎二郎・情報産業課課長補佐)と話す。
過去を振り返れば、NTTデータが中心となって構築した国内最大のカード決済総合プラットフォーム「CAFIS(キャフィス)」は、新規に構築したITプラットフォームの例であり、証券会社の共通業務システムを共同利用型で提供する野村総合研究所の「STAR」は、共同利用型サービスの例として挙げられる。
今後は、AIや業務自動化のRPAといった比較的新しい技術を活用することで、既存システムのコストを下げられる。経産省では、下げた分を価値創造につながる新しいプラットフォームの構築や、共通基盤サービスとなり得る技術革新に結びつける政策によって「『2025年の崖』の克服に一歩でも近づけていきたい」(和泉企画官)と話す。