unwired――。直訳すれば「無線」になるであろう。しかし、5Gの価値は無線ではなく「つながれた状況からの解放」となるのではないかと思う。
(1)Standaloneシステムでは、これまでの携帯電話網の構造を脱却し、インターネットの構造へと進化することになっている。電話網からの解放である。5Gは広帯域通信(eMBB)、超低遅延(uRLLC)、超多数接続(mMTC)の三つを実現するとされている。しかし5Gは、次世代ネットワークのNGN(Next Generation Network)に代表される電話網のアーキテクチャーに基づいたBISDN(Broadband ISDN)がインターネットになったのと同様に、これまでの携帯電話網とは本質的に異なるインターネットに似たシステムになるのではないだろうかと筆者は思うし、これが5Gの重要な役割の一つであると考えている。
(2)5Gの周波数割り当ての規制に関しては、ユニバーサルサービスの提供を念頭においた広域モバイルプロバイダー(MNO)への周波数の割り当てだけではなく、今回、ローカル事業者へのLicensed bandの割り当てを推進することになっている。これまでも、周波数の割り当てを受けた事業者と、その周波数を利用し事業を行う事業者は同一である必要はなかったが、今回の5Gでは、ユニバーサルサービスの提供という縛りから解放されたローカルな事業者が排他的な占有利用が可能な周波数を用いて事業を行う環境を強化するという方向性である。つまり、「ユニバーサルサービスからの解放」である。
この2点は、何を意味するのであろうか。技術的には電話網の呪縛からの解放であり、もう一つは企業の呪縛からの解放ではないだろうか。5Gは無線網と捉えられるのが一般的ではあろうが、実は、有線網の容量と物理的な敷設領域の拡大が必須となり、有線網の再整備の側面もある。
ローカルな事業者の出現は、インターネット黎明期のLANの相互接続とローカルな小さなISPの相互接続と同じ状況を作り出す可能性を持っている。広域ISPによるインターネットサービスではなく、自律分散型の小さな網の相互接続により、マルチステークホルダーが広域網の構築と運営である。つまり、5Gの本当の価値とは「広域サービスおよびモノポリー(あるいは寡占状況)からの解放(unwired)」ではないだろうか。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。1998年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。