電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」は2020年秋をめどに刷新する。来年夏にはAPIで連携する業務ソフトベンダーなどに向けてテスト環境を公開する予定だ。刷新のポイントは「ユーザー本位の使い勝手の一層の向上」(e-Govを担当する総務省の大西一禎・行政管理局調査官)で、社会保険労務士やAPI連携を行う業務ソフトベンダーの担当者との研究会や勉強会を重ねて完成度を高めてきた。(取材・文/安藤章司)
大きな変更点としては、ユーザーごとの「マイページ」的な機能を新設し、ユーザーの申請内容を一覧できるようにする。これまでは申請単位で進捗状況を追跡することができたが、申請件数が増えると全体を把握するのに手間がかかった。次期e-Govでは「マイページ」的な画面に申請の進捗に合わせた「通知」機能も拡充することで、一覧性を大幅に改善する予定だ。
左から総務省の高雄悠太郎係長、大西一禎調査官、網野尚子課長補佐
申請業務はインターネットブラウザーから個別に行うことも可能だが、実際の業務における使い勝手を考えると、ユーザーが日常的に使っている業務アプリケーションの画面から、そのまま申請できるAPI連携の充実が欠かせない。
また、足下のe-Govは、厚生労働省への年金や雇用保険、労災保険などの申請業務が多くを占めるため、刷新に当たっては勉強会などを通じて申請業務に詳しい社労士から徹底して聞き取りを行っている。
こうした経緯もあり、申請業務については主にユーザー企業や社労士からヒアリングし、API連携の技術面については、主に業務ソフトベンダーの技術者から“今どき”の技術動向を取り入れている。総務省の網野尚子・行政情報システム企画課課長補佐は、「役所側が単独で『これがいい』と仕様を決めるのではなく、ユーザーや業務ソフト開発の技術者から意見を取り込むプロセスを、とりわけ重視した」と話す。
e-Govは従来からAPIの仕様を外部に公開しており、業務ソフトベンダーはこの仕様に沿って自社の業務アプリケーションにAPI連携の機能を実装してきた。だが、これまでのe-Govは“今どき”とは言いがたい独自仕様が多く、業務ソフトを開発する技術者からは一部戸惑いの声が挙がっていたのも事実だ。
社会保険や労働保険などの手続きの電子申請を促進する社会保険システム連絡協議会が、この8月に開催した勉強会「e-Gov連携サービス開発者の集い」では、クラウド人事労務ソフト開発のSmartHR、会計ソフト開発のfreee、ERPベンダーのSAPジャパンの技術担当者らが登壇。認証方法やシステムの反応速度、通知方式といった点について、現行のe-Govの改善余地を指摘している。
総務省では、「こうした勉強会で得た知見を次期e-Govの改善に生かしていく」(高雄悠太郎・情報システム管理室総合窓口提供係長)と話す。ユーザーとの研究会や勉強会を通じたe-Gov仕様の策定プロセスを、将来的にも続けていくことで使い勝手の継続的な改善を行っていく。