視点

株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫

2020/08/07 09:00

週刊BCN 2020年08月03日vol.1836掲載

 新型コロナウイルス感染症の大流行で、IT業界に限らずテレワーク関連事業は大盛況である。テレビ広告でもテレワークを謳うものが次から次へと流され、テレワーク導入企業を紹介する報道番組も目にとまる。

 私が所属する業界団体でもテレワーク活用推進のためのワーキンググループが発足し、参加ベンダーのテレワーク関連製品のリストづくりや業界内ユーザーのニーズを調べるアンケート調査が行われている。だが、「テレワークのための情報システムとは?」という問いに対する明確な答えはありそうでない。いや、断片的には市場に散在しているのだが、それを単純に集めるだけでは答えにならない。

 テレワークで必要な、あるいは役立つソフトウェアツールやクラウドサービスという観点で市場を見ると、すでにさまざまなものが溢れるほど出揃っている。大流行のビデオ会議を始め、グループチャット、メッセージング、クラウド・ストレージ、PCのリモートアクセス、おまけに各種SNSなど、今や誰もが知る名称がずらっと並び、そのすべてが無償で始められる。私自身、これらの多くに個人用のフリーメールアカウントを使ってアカウント登録を行い、調査目的でいろいろと使ってみたが、常用するに至ったものはごく一部でしかない。これまで、中途半端に使っていたクラウド・ストレージ、グループチャット、メッセージングなどに自らの意思でアップロードしたさまざまなファイルの残骸が残り、クラウド中を漂っている可能性は否定できない。

 こういったものを組織として利用するには、その機能や利便性を求める以前に、そこで使われるユーザーアカウントやデータを集約管理する上で備えが必要になる。社内情報システムをテレワークで活用できる体系へ再構築するには、テレワーク用と謳われる各種クラウドサービス、社内のPCやサーバー上で現在使っている業務アプリ、さらには電話やFAXなど、さまざまな情報通信資源へのアクセス権を組織的に管理されたユーザー固有のアカウントにより承認するシステム管理体系に組み直さねばならない。テレワーク導入を健全に進めるカギはこんなところにある。そして、そんな役目を担うべきは旧来SIerと呼ばれてきた人々である。彼らが数人から十数人程の小規模企業にも目を向けてくれることを願う。
 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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