東日本大震災から、今年で10年になろうとしている。私は、ボランティア団体に参加し、一時期は毎週のように被災地に通っていた。何年か経ち、あの被災直後の破壊され尽くされた荒涼たる景色の中に、道路や建物などが新しく作られ、復興がカタチとなり始めた光景に感動したことを覚えている。そんな折に、地元の人たちから思わぬ話を聞くこととなった。

 「街の人々が戻ってきたわけではない」

 被災した地域は、元々が過疎化の進んでいた地域だ。都会へ出ていた若者の中には、震災を機に地元に戻った人たちもいるが、むしろ、震災によって人口の流失が増えて、過疎化が加速したというのだ。復興のために道路や街を新しくしたが、過疎化という「本質的な変化の底流」を変えることはなかった。

 私には、いまのコロナ禍が、そんな東日本大震災とかぶって見える。コロナ禍で本質的な変化の底流が変わったわけではない。変化のスピードが加速したに過ぎない。言い換えるならば、3~5年はかかるところが、半年から1年という時間に短縮されたということだ。

 テクノロジーは時代を先取りする。働き方の多様化を実現するリモートワーク、これを支えるゼロトラストネットワークなどは、ここ何年も語られてきた。クラウド・ネイティブ、アジャイル開発、DevOpsなどもまた、以前から巷を賑わしていた。

 本質的な変化の底流は何も変わらないままに、コロナ禍は、このようなキーワードを一気に浮かび上がらせ、動きを加速した。しかし、SI事業者の中には、この動きの「足かせ」となっているところもあるように見える。

 不確実性の常態化、ビジネススピードの加速、ビジネスのサービス化といった本質的な変化の底流を顧みることなく、RPA、リモートワーク、AIやIoTなどのキーワードを並べ、その導入を促すことをデジタルトランスフォーメーション(DX)だと言ってはばからないとすれば、まさに足かせである。

 テクノロジーのトレンドに、謙虚に真摯に向き合うべきだ。そんな上っ面だけのDXなんて、恥ずかしいと思うべきだ。そんな言葉など使わなくても、トレンドに向き合えば、それは自ずとDXへとつながる。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。