日本では情報通信技術を活用した新規産業の創造が上手くいっていない、とOECDレポートに書かれたのは20年程前のこと。それ以来、ASP、SaaS、クラウドと、はやりに流されたが、そのような流れに巧みに乗ってさまざまな新規産業が創造されたとは言い難い。当時から情報通信産業の衰退を懸念する声は少なからずあったが、積極的に産業構造を変えようという目立った動きはなく、自虐的に「3K」とまで称した旧来の業態が大きく変わることがないままに時は過ぎた。

 今ではSaaS、クラウドと唱えることで先進的な取り組みであるかのような素振りをしつつ「GAFAM」など、身の丈に合わぬ先達に学べとすり寄る姿が目立つばかり。

 今はやりのDXにしても、2017年に市場調査会社によるレポートが出され、18年に経済産業省が研究会を立ち上げ、今回のパンデミックに後押しされる形でようやくIT業界やマスコミが騒ぎ始めた。相も変わらず動きの遅いわが国のIT業界。慎重なのか、臆病なのか、それとも無策なのか。その何れも否定できまい。

 IT人材教育といってもその実態は外資系ベンダーやサービスプロバイダーの資格取得に偏っているのが実情。誰でも取得できるような公的IT技術資格を取ったところで、ITエンジニアとして希望のある未来図が描けるわけでもない。

 プログラミングなんて誰でもすぐに修得できる、と無責任に言い放つ業界人も少なくない。結果、苦労して学んだ専門課程の教養などを生かす機会もなく、わずか数カ月のプログラミング教育を受けただけで、いきなり現場へと放たれるITエンジニアと称される若者たち。あとは自学自習、自己研鑽に励むように、と言われても、必要な基礎教育も十分に受けられぬまま過酷な現場であがき苦しむ。

 最先端の技術的知識や教養を身に付けることもなく、仕様書通り、指示書通りのルーチン作業を日々繰り返すばかりで疲弊し、焦燥するITエンジニアたち。人材教育には優れた指導者と優れた教材が必要なはずなのに大学でも企業でも、これだと思えるモノなど見当たらない。優れた人材を育てる仕組みは一体どこにあるるのか。そんなところに、これからはDXだといきなり言われても、何を学び何を為すべきか、わが身の行く末を描くことなどできるはずもない。「誰か教えて、私たち、これからどうすれば?」 

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。