視点

地域一番企業の道場「町コン」

2021/11/03 09:00

週刊BCN 2021年11月01日vol.1897掲載

 中小企業の育成支援策としてスタートアップ企業が注目され支援策が展開されているが、地域の一番企業を育てるための支援策を講じているところは、そう多くない。これはスタートアップが独自の技術やノウハウを持ち市場を全国、世界

 この地域一番企業の育成を専門に進めるコンサル会社がある。通称「町コン」(町医者的経営コンサル)と呼ばれる五十嵐コンサルティングオフィス(本社・東京都江戸川区)である。指導法は極めてシンプルで、ランチェスター戦略を使って弱者が勝てる経営モデルを企業と一緒に考え実践する。

 指導する業種は多岐にわたる。五十嵐勉社長は「ほとんどの中小企業の経営者は不思議なことに驚くほど勉強をしていません。ただ漫然とこれまでの商売を真面目にやっています。技術やサービスなど時代は変化するのです。この流れを少し取り入れるだけでも会社は変わります」と話す。

 もう一つ口をすっぱく指導するのが「絶えず良い製品(サービス)を高く売るために工夫する」こと。良いものを安く売るという常識に慣れた経営者には頭の切り替えが難しいが、大事なことである。

 具体的な指導事例をいくつかあげると、例えばA写真館。プロのカメラマンを配し1回当たり10万円で撮影のサービスを行う。そんなお客がいるのか――いるのである。七五三や入学式などのメモリアルに今では固定客も付いている。B居酒屋。ここは豊洲市場に特殊な人脈をつくり極上の魚を安く仕入れ、料理をして高く売る。この店は珍しい魚が新鮮で美味いと評判になっている。

 これらの成功事例は、昔からの商売のやり方をそのまま続けていることの裏返しである。ここまではやらなくても、せめて守備位置を50センチほど移せば何とかなるのだが、それすらもなかなかしたがらないと言う。

 この20年の日本経済のゼロ成長は、実は多くの企業で技術進歩、生産性向上が図られなかったことも大きい要因の一つである。そんなことはないと言う人も多いのかも知れないが、一部の成長企業を除けば多くの中小企業はどうしたのかと思うぐらい変われなかった。この課題に愚直に正面から取り組んでいる「町コン」の姿勢には頭が下がる。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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