視点

日本企業を活性化させる新たなプロジェクト

2022/04/20 09:00

週刊BCN 2022年04月18日vol.1919掲載

 かつてあるメガバンクの方が「平家、海軍、国際派は、格好はいいが社内では力がないですね。余程のことがない限り、われわれの出番はありません」と語ったことを思い出す。社内の運営は、源氏、陸軍、国内派が主導権を持ち、人事や財務部門が人を動かしている。そうした中で、多くの金融機関で国際派の幹部登用が増えてきたのは、いま、余程のことが起きているのであろう。

 民間企業で海外ビジネスにかかわり、多くの実績を上げてきた人が会社の経営陣に残れず、定年後は、その経験を生かすことも少ない。これは、日本の経営者の人材市場がIT分野以外はあまりできておらず、相変わらず従来の会社マーケット、業界マーケットが中心になっているからだ。

 この流れに一石を投じているのが、この4月から本格的にスタートするオフィスリングシステム(本社東京、弓山桂司社長)が進めるプロジェクトである。最初に米国やアジアに赴任し海外ビジネスを手掛けてきた逸材を20人ほど集め、海外ビジネスのコンサルティングを開始する。それも、素早く、低コストでこなす極めて実践的なコンサルティングである。

 この20人のなかには、ブラジル、インド、ドバイと、ビジネスの難所をこなしてきた侍もおり、まさに多彩な顔ぶれ。身軽で、気軽で、腕が立つ頼もしいシニアビジネスマンの集団なのだ。

 弓山社長は「長く人材紹介の仕事をしてきましたが、60歳から65歳の海外ビジネスで功績を残した極めて優秀な人材が、単に定年というだけで活躍の場が閉ざされる事例を実に多く見てきました。この人材を中小企業などの必要としているところに届ける。日本企業が活性化すると思いますよ」と語る。

 言い方は適切でないかも知れないが、終身雇用で会社という檻に入れられると、解放されて、檻の鍵が外されていても、なかなか外に出られない習性が身に付く。まして外に適切な市場はない。

 考えて見ると、日本経済30年の停滞の一因は、終身雇用や年功序列、同一年齢同一賃金、企業内組合という形で人材を固定化させてきたこと、そして、その中でしか新たな市場を作らなかったことかもしれない。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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