視点

個人の学びを組織の学びに転換する三つのステップ

2022/06/01 09:00

週刊BCN 2022年05月30日vol.1924掲載

 個人として「学んでいる人」はたくさんいる。しかし、それが、組織の学びにならないのはどうしてだろうか。

 心理学において学習とは「人間や動物が過去の経験によって行動様式に永続的な変化が生じ、環境に対する適応の範囲を広げていく過程」という意味で用いられる。たとえ知識を得ても、行動を起こさなければ、学習にはならず、結果として、社会の変化に適応できずに生存の危機に陥ると言うことでもある。

 組織が意思を持つことはないのだから、組織が勝手に学ぶことはない。組織の成員たる個人が学び、それが組織に取り込まれて、組織の行動が変わることで、組織の学びになる。それには、次の三つのステップが必要だ。

 1.知る:「現実」と「あるべき姿」とのギャップを、個人が明確に認識すること。このギャップが「課題」である。

 2.行動する:個人の意識した「課題」を組織の「課題」として共有し、課題解決の方法を明確にする。これが「ソリューション」だ。ちなみにIT製品やITサービスのことではない。それらが含まれることはあるが、ルールや組織、習慣や暗黙の了解を変えることも含まれる。

 3.定着させる:「ソリューション」を実践し、試行錯誤して最適なやり方を見つけ出して、日常の行動習慣にする。これが定着すれば、組織の「知恵」となり、企業文化となる。

 これらの三つのステップで「知る」ことは比較的容易だが、「行動」と「定着」には、経営者や管理者の積極的な関与が不可避だ。

 「うちの社員は、いくら研修をしても、行動しない」。そう嘆く経営者もいるが、学んで得た知識を忖度なく議論できる場や風土をつくる努力を怠っている自分たちが、その原因であるかもしれない。まずは、そんな現実を受け入れて、場や風土を変革するための行動を起こすことが経営者の役割だ。

 将来を予測することが困難な時代であるからこそ、個人の学びを組織の学びに転換することで、企業を変え続けなくてはいけない。DXの実践は、そんな取り組みから始めるべきだろう。

 
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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