ほくでん情報テクノロジーは、北海道電力を中心とする「ほくでんグループ」向けを中心に事業を展開してきた。景況感は先行き不透明な部分があるが、道内でITの需要は高まり、DXに向けた意識も向上している。魚住元社長は、グループ内からの継続的な収入に期待する一方、さらなる成長に向けて外部の企業との取引拡大を目指している。核となるのは、2001年に営業を開始した「H-IXデータセンター」だ。
(取材・文/齋藤秀平)
再エネの導入拡大をチャンスに
――展開している事業の紹介を。
北海道電力の基幹業務システムやネットワークを含めたITインフラの開発・構築、運用・保守を一貫して担う企業として設立して以来、北海道電力による電力の安定供給やほくでんグループの発展に貢献してきた。今は北海道電力と北海道電力ネットワークからの収入が売り上げの8割以上を占める。北海道電力向けの事業では、業務システムの再構築が続いていることに加え、16年からスタートした電力小売りの全面自由化に関わる電力システム改革に伴う開発が継続している。
――直近の景況感と今後の見通しは。
30年度末を予定している北海道新幹線札幌延伸などを見越した札幌圏の再開発が進んでおり、景気回復に向けたプラス要因がみられる。ただ、ロシアとウクライナの紛争に起因したエネルギー価格の高騰といった下振れ要因もあり、先行きはなんともいえない状況だ。北海道電力の売り上げに直結する電力の需要は、人口減や省エネルギーといったマイナス要因がある一方、50年のカーボンニュートラルの達成に向けた電化の拡大による増加が期待できる。道内では、洋上風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大が顕著になるとみられ、これに関わる情報システム関係はビジネスチャンスになると捉えている。
魚住 元 社長
顧客と考えるスタイルで提案
――コロナ禍の影響は。
営業活動の縮小に加え、出張や研修の自粛など、当社の事業にはさまざまな影響があった。ITの面では、コロナ禍でワークスタイルの変革が進み、ITの導入がこれまで以上に加速した。現在、働き方改革向けのソリューションとしてリモートデスクトップやWeb会議システムの導入支援サービスを提供しているほか、情報セキュリティサービスや、店舗や施設などの混雑状況を見える化するIoTソリューションを手掛けている。最新の技術動向をキャッチし、機会を逸することなく新たなソリューションの開発・提供に向けてチャレンジしており、その具体例の一つとして、ビュッフェ料理の残量感知サービスを試作している。
――DXに向けた顧客の意識はどうなっているか。
ほくでんグループは、新電力の激しい競争にさらされている。経営基盤の強化に向けて、ヘッドマウントディスプレイを活用した現場の巡視・点検作業や、火力発電所内でのローカル5Gの活用といった取り組みを進めている。札幌市を中心とした道内の経済界もDXへの関心は高いが、中小企業の声を聞くと、「やりたいが、何をしたらいいか分からない」という声がある。われわれとしては、お客様と考えるスタイルでの提案を進めている。
カーボンフリーが強みに
――H-IXデータセンター事業の状況は。
ほくでんグループ外向けのビジネスの柱に位置づけている。お客様の数は約170社で、そのうち半数程度を本州のお客様が占めている。データセンターでは、システムインテグレーション&アウトソースやクラウドサービス、ハウジングサービスを提供しているが、コロナ禍における営業活動の制約や、燃料価格の高騰による電気料金の値上げに伴う支出増で苦戦を強いられており、事態を打開すべく巻き返しを図っているところだ。
――顧客に選ばれる理由は。
データセンターを開設している札幌が、地理的に地震や津波、洪水といった災害に強いことが理由の一つとしてある。18年の北海道胆振東部地震の際には、約10時間、電力供給が止まったが、予備電源を稼働し、お客様に迷惑をかけることなく事業を継続した。最近では、電源のバックアップ機能を高めるべく、非常用発電機の連続運転時間を24時間から72時間に延ばした。使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替え、カーボンフリーのデータセンターであることも強みになっている。
――今後の戦略を。
当面はほくでんグループから一定水準の収入が期待できるが、先行きは極めて不透明・不確実で、グループからの収入が減ることも想定してビジネスを展開している。今後も成長していくためには、グループ外のお客様との事業領域をこれまで以上に広げていかなければならない。H-IXデータセンター事業を中心に、顧客への付加価値を向上させるとともに、新規顧客の獲得を進める。グループのシステム構築を通じて総合力と組織力を積み上げてきたので、これを礎に提案力やサービスに磨きをかけ、お客様から満足・信頼される企業を目指す。
Company Information
北海道電力向けの基幹業務システムやIT企業インフラの開発・構築、運用・保守を手掛けるIT専門会社として1991年6月に設立。2001年に「H-IXデータセンター」を立ち上げ、関連ソリューションを提供。21年度の売上高は約96億7700万円、経常利益は約6億9000万円。22年4月現在の従業員数は411人。