視点

DXが目指す情報アクセス

2023/11/15 09:00

週刊BCN 2023年11月13日vol.1992掲載

 10月10日と11日、全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)の全国大会が山形市で開催され、理事を務めている私も参加してきた。全視情協は、視覚障害者が点字や録音図書などを使って情報にアクセスするための規格や制度の策定、機器の開発を進めている団体だ。

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は著作権者団体である。一方、全視情協は著作権の制限を拡大して利用しやすくしようという立場にある。私が20年以上前に全視情協の理事に就任した当時は、視覚障害者が著作物を利用するとき、著作権が足かせになっているという主張が厚生労働省方面から強くあった。このため当初は、ACCSの専務理事として、逆の立場にある団体の理事に就くことへの疑問を口にする人もいた。

 それでも当時、ACCS理事長を務めていたカプコンの辻本憲三・会長CEOには、あっさり了承していただいた。それは、一代であのエンターテインメント企業を育て上げた理事長には、いずれ著作権の利用を通じて視覚障害者を含めた皆が幸せになることが価値を持つ時代がやってくる、という直感があったのではないか。

 ACCSの理事長がオービックビジネスコンサルタントの和田成史・社長に代わって1年半。私は和田理事長の考えを知ろうと、密にコミュニケーションを取ってきた。今では、DXの下、ソフトウェア開発や良質なコンテンツの創作、流通促進を通じて、よりよい社会をつくっていくことが和田理事長のビジネス、ソフトウェア文化への貢献、ひいては生きる目的だと感じている。

 私はハンディキャップのある人たちや、年齢とともにハンディを抱える全ての人々が安全・安心に生活できるよう、情報へのアクセス向上に注力してきた。こういう生活に根ざした貢献があるからこそ、市民社会が守るべき権利として認識、理解してくれるのではないか。著作権法は「文化の発展に寄与すること」をその目的としているのだ。

 単に著作権保護を叫ぶのではなく、著作物の意味や価値について多くの人に深く知ってもらうこと、ひいては表現の自由や情報の価値が理解され、民度の高いよりよい社会にしていくこと。それがACCSの活動の目的なのではないか。和田理事長のDX哲学を反芻し、全視情協とACCSとの強い連携を確認したところである。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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