視点

生成AIの活用に出遅れる日本

2024/11/27 09:00

週刊BCN 2024年11月25日vol.2038掲載

 2024年5月8日に発表された米Microsoft(マイクロソフト)と米LinkedIn(リンクトイン)の年次レポート「2024 Work Trend Index Annual Report」によると、日本の仕事現場における生成AIの活用率は、調査対象31カ国中で最も低い水準にあることが明らかになった。世界平均では75%のナレッジワーカーが生成AIを活用しているのに対し、日本はわずか32%にとどまっている。インドや中国など90%を超える国もあり、日本の遅れは際立っている。

 この生成AI導入の遅れの背景には、いくつかの要因が考えられる。

 第一に、日本特有の保守的な企業文化だ。日本企業は新技術の導入に対して慎重で、特にリスク回避を重視する傾向が強い。これは過去の成功体験からの安定志向や、失敗に対する責任追及が厳しい文化が影響し、新技術の導入をためらわせている。

 次に、AIに関する知識やスキルを持った人材の不足だ。日本ではAI人材の育成が十分に進んでいない。私の所属するサイバー大学では25年度春学期から生成AI活用のコースをスタートする。

 さらに、日本企業はデータの活用に対する意識が低い傾向があることが挙げられる。データの質や量の不足が原因で、AI活用の基礎となる学習データが整っていない場合が多い。

 最後にセキュリティーに対する懸念も障壁となっている。生成AIの導入に伴い、データ漏えいや不正アクセスといったセキュリティーリスクが高まることが懸念されている。

 これらの要因が複合的に作用し、日本における生成AIの導入が遅れていると考えられる。日本がこの状況を打破するためには、まず、経営層の意識改革が不可欠だ。経営層が生成AIの重要性を理解し、積極的に導入を推進していくことが求められる。失敗を恐れずに、新技術に挑戦できる企業文化を醸成することも大切だ。

 生成AIは、業務の効率化や新価値創造に大きく貢献する可能性を秘めており、日本企業が国際競争で生き残るためには、こうした技術を積極的に導入していくことがかぎの一つとなる。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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