生成AIは技術的にも市場的にも、今、転換点に差しかかっている。2026年の生成AI市場をどう見るか、私見を述べたい。
これまで市場の関心を集めてきたチャットボットは、導入の入り口として一定の役割を果たした。一方で、検索外れ、古い回答、複合質問で「それっぽい一括回答」に寄り過ぎた設計など、限界も見え始めている。サービス品質に課題を抱える例も少なくない。結果として、巷では「AI幻滅論」さえささやかれる。
しかし、ここで「AIが使えない」と結論づけるのは早計だ。論点はいま「会話」から「業務の遂行」へ移りつつある。成果を出すには、単なる対話窓ではなく、業務を自律的に前へ進める実行体として設計し直さねばならない。
かぎは「継続学習」の再定義にある。それはモデルを再計算することだけを指さない。現場の知見を吸い上げ、ドキュメントを磨き、AIの参照設計(参照先と更新ルール)を整備することだ。回答には必ず出典を付すべきである。誰がその品質に責任を持つかというシナリオなき導入は、いずれ組織に混乱をもたらす。
評価も変えるべきだ。検索品質(再現率・関連度)と回答品質(根拠忠実性・過剰断言)を分けて測り、更新による性能低下を検知する回帰テストを徹底する。「昨日できていたことが、今日できなくなる」ことを許さない厳格な規律が回り始めて初めて、現場での信頼が積み上がる。
そして市場はエージェントによる「実行」へ進む。利便性の裏側で、権限の誤設定や出力の暴走が事故につながるリスクも増大する。活用範囲を広げる条件として「AIにどこまで任せ、どこから人間が責任を持つのか」という責任分界点とガードレールを、先に決めることが求められる。
導入の指針を三つ。第1にデータ管理。日々使う文書の所在と責任者を棚卸しする。第2に回答規範。出典必須と「不明な点は質問で返す」を標準動作にする。第3に効果測定。正答率ではなく、処理時間、手戻り、問い合わせ件数で効果を測る。提案するベンダーは、この3点を導入手順として明文化し、顧客が社内で回せるかたちで引き渡したい。
狂騒の次は現実である。派手さより再現性。避けては通れぬ旅路への備えとしての第一歩が、転換点の先で確かな差となる。それでは、未踏の地へ良き旅を。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。