業務ソフトウェアの市場にも変化の波が押し寄せている。クラウドのニーズが高まり、各ベンダーが対応に注力する中、パッケージソフトを軸にビジネスを展開してきたミロク情報サービスも、クラウド・サブスク型ビジネスモデルへの転換を進めている。重要なパートナーである会計事務所とのさらなる連携強化を掲げ、新たなビジネス創出などを目指す是枝周樹社長は「当社はイノベーションの塊」と自信を示している。
(取材・文/齋藤秀平 写真/大星直輝)
クラウド化の動きは「想定外」
――コロナ禍がきっかけとなり、業務ソフトのクラウド化が進んでいます。この動きについてどのようにみていますか。
全体の兆候としては、コロナ禍になって、対面で商談を進める接触型のビジネスが減りました。それを補うためのITツールが出てきて、それと同時に業務系のクラウドもどんどん伸びてきたと感じています。サブスクリプションモデルのクラウドが、これからは増えていくだろうとみてはいましたが、もう少しゆるやかなクラウド化を予想していたので、今の動きは当社にとって想定外でした。
――2021年3月期の第2四半期(20年4月~9月)売上高は、前年同期比12.2%減でした。今期の第2四半期売上高は同7.6%増となり、ほかの指標も改善しています。業績に対するコロナ禍の影響はやや落ち着いてきたとみていいのでしょうか。
おかげさまで決算は元気がよく、特にクラウド・サブスク系は対前年比で2桁成長を遂げており、成長率は競合ベンダーと変わらない水準を維持しています。ビジネスモデルをシフトする時は労力が発生します。そこにコロナ禍が起こりました。振り返ってみると、一時期は本当にパニックで大変でした。ただ、ある意味で窮地に立たされたものの、営業のスキルは上がりました。これから収益性は変わってくるという見込みを立てており、売り上げに対してネガティブな要因はほとんどないという状況でビジネスは推移しています。成長の準備のために、今は少しだけしゃがませてもらっているという感じです。
――今期の第2四半期では、企業向けシステム導入契約の売り上げで、新規企業の割合は30.1%となっています。この数字についてはどのように捉えていますか。
ここ10年くらい継続的に新規の顧客を獲得していますので、今に始まったことではありません。私は社長に就く前に営業本部長を兼務していました。その時から新規顧客の獲得に取り組んでおり、それが恒常的にできるようになってきました。組織では、人が変わると数字も変わることがありますが、変わらずにできていることは素晴らしいことだと思いますし、社員には感謝しています。
――企業向けでは、どのような製品の引き合いが多いのでしょうか。
中堅企業向けERPシステム「Galileopt」と、中規模・中小企業向け業務ERPシステム「MJSLINK」の販売が順調に推移しています。テレワークやバックオフィスの労働生産性の向上、IaaS対応、BCP(事業継続計画)対応などの観点から、企業向けには製品とコンサルティングを組み合わせたソリューションビジネスを展開しており、中心的な役割を担っているのが全国のソリューション支社です。今年4月から、支社は4拠点増設して計11拠点としました。時代に合った取り組みで、既に実績は出ています。これからビジネスをもっと広げていくために、支社については増やしていく方針です。
約50万社のデータを活用する
――会計事務所向けの製品は他社からも提供されています。競合製品と比べた場合の強みはどこにあるとお考えですか。
財務会計のソフトは、似たり寄ったりのところがあります。その中での違いというと、当社の製品は、周辺モジュールが強い点が特徴になっています。それとワークフローですね。例えば勘定系の承認申請から自動的な仕訳、債権債務などの支払いまでワークフロー上で一気通貫にできることは大きな強みになっています。一方、会計事務所から見ると、個別のソフトごとにテンプレートが違うのは、業務の上で非常に負担になっており、その部分のデータ統合についてはニーズがあります。われわれはデータ交換のモジュールを持っているので、これを使って会計事務所が抱えるデータ統合の課題の解決にも取り組んでいます。
――会計事務所との連携を重視する狙いについて教えてください。
特に中小企業の経営者は、資金や投資などのリスク、売り上げを伸ばすために何が欠けているかといった点について、“健康診断”ができない場合があります。事業の内容や従業員の規模、経営者の思考など、企業の複雑性に対応できるのは、会計事務所しかありません。顧問先企業の税金の部分だけを支援するのではなく、経営者が気づかない点を、健康診断をする医師のように提言できることが付加価値になると考えています。会計事務所が生き残りをかけて顧問先企業に新たなサービスを展開していけるように、われわれとしては新製品やサービスの企画開発を推進するなどして、さまざまなエッセンスを提供していくことを目指します。
――26年3月期までの中期経営計画では、会計事務所のネットワークで「No.1戦略」を掲げていますが、具体的な戦略を聞かせてください。
会計事務所との信頼関係は、会社設立から44年で築いてきたわれわれの最大の強みです。現在、会計事務所のユーザー数は約8400事務所で、シェアは25%となっています。今後、高齢化に伴い、会計事務所の合併が進んでいくとみているので、まずは現行ユーザーの維持に努めるのと同時に、新規ユーザーの獲得もしっかり進め、ネットワークの拡大を目指していきます。当社ユーザーの会計事務所が経営を支援する顧問先企業は約50万社と試算しており、企業の規模は中堅・中小企業と小規模事業が中心となっています。われわれとしては、将来的に会計事務所向けERPシステム「ACELINK NX-Pro」を通じて約50万社の顧問先企業のデータをクラウド上に収集・蓄積し、分析・活用することで、顧問先企業の満足度向上や、会計事務所のサービスの付加価値向上などにつなげていくことができるとみています。これについては、ユーザー4100人でつくる任意団体「ミロク会計人会」とともに、現在、実証実験を進めています。
――新規事業として進めている「統合型DXプラットフォーム戦略」の進ちょくはいかがでしょうか。
統合型プラットフォーム戦略は、中小企業や小規模事業者にとって、アフターコロナ時代に必要となる四つのDX(デジタルトランスフォーメーション)をプラットフォーム上で同時に実現できるようにすることを目的としています。具体的には、新規顧客開拓や顧客満足度などの経営課題に対応する「マーケティング」、フロントオフィス系BtoB取引の「ビジネス」、バックオフィス系管理業務の「オペレーティング」、資金の管理・調達の「ファイナンス」を対象に、DXプラットフォームの構築を目指しており、マーケティングの部分については実証実験を始めています。一部の業務だけでなく、すべてを網羅することで、本当の意味のDXが進むと思っています。こういったことに取り組める当社はイノベーションの塊だと自負しています。
――最後に今後の抱負をお願いします。
21年3月期までの中計で目標として掲げていた売上高500億円、経常利益150億円については、残念ながら達成することはできませんでした。それによって失ったステークホルダーの信用を回復することが今回の中計の柱となっています。今後、クラウドを中心にビジネスをモデルチェンジすることを踏まえて計画値を設定しているので、それぞれの取り組みをしっかりと実行していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「着眼大局、着手小局」。物事全体を広い視野で捉え、小さなことを着実に積み重ねていくとの意で、是枝社長が経営者として長年にわたって大切にしている姿勢だ。
会社はコロナ禍の影響を受け、21年3月期の通期連結業績は、ここ数年の増収増益基調から一転して減収、営業減益となった。しかし、改善の兆しは見えており、是枝社長は「売り上げに対してネガティブな要因はほとんどない」とみる。
業務ソフトの市場が大きく動いている現在の状況を「市場でビッグプレイヤーやプラットフォーマーになれるかという大局に身を置いている」と位置づける是枝社長は、ソフト提供を主軸とする既存ビジネスからの飛躍を見据える。来年は会社設立45周年。これからも積み重ねを続け、当面は中計で掲げる26年3月期に売上高550億円、経常利益125億円の実現を目指す考えだ。
プロフィール
是枝周樹
(これえだ ひろき)
1964年2月生まれ、東京都出身。94年にミロク情報サービス取締役に就任。経営企画室長や情報システム室長、営業本部長、マーケティング本部長などを歴任・兼任し、2004年に代表取締役副社長と最高執行責任者。05年に代表取締役社長に就任し、15年から最高経営責任者(現職)。
会社紹介
【ミロク情報サービス】 1977年11月に設立。税理士・公認会計士事務所や顧問先企業向けの業務用アプリケーションソフトの開発・販売などを手掛ける。本社所在地の東京のほか、大阪や名古屋、福岡の各支社など全国に31カ所の営業・サポート拠点がある。2021年3月末現在の従業員数(連結)は1891人。