Special Feature
有望市場に変貌する中小向けSI(後編)新興・老舗SIer、複合機メーカー系販社の三つ巴
2021/10/07 09:00
週刊BCN 2021年10月04日vol.1893掲載

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中小企業向け個別SIのビジネスは、ローコード開発やSaaSアプリ、内製化支援の組み合わせによって費用や時間をどれだけ抑えられるかが勝負となる。コロナ禍以降はオンラインでの要件の聞き取りや開発、操作指導を行うケースが増え、全国規模でより多くの中小企業の顧客にSIサービスを届けられるようになった。新興SIerや中堅・中小企業に強い老舗SIerに加えて、主要な複合機メーカー系販社もこの領域に力を入れており、三つ巴となったベンダー間の競争も激しさを増しそうだ。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
受注高が前年度比で倍増
サイボウズのローコード開発ツール「kintone」を使って1回2時間、3回の打ち合わせ/開発、予算39万円(税別)で個別SIを完結させる定額制対面開発サービス「システム39」で知られるジョイゾー。コロナ禍の混乱の中にあっても昨年度(2021年9月期)受注高ベースで前年度比倍増で推移した。受注を後押ししたのは、20年11月から始めた他社製のkintoneプラグインなどの設定作業を代行する「エコシステム39」で、帳票出力や集計ツール、工程管理といった機能を追加できる。個別SIをしなくても、他社が開発済みのプラグインを活用することで「より早く、より多くの機能を業務アプリに実装できるようになった」とジョイゾーの四宮琴絵・取締役COOは話す。
主力のシステム39は、仕様書を書かず、持ち帰り開発もせず、原則として対面している時間内に開発を終えるサービスだが、コロナ禍を受け、物理的な対面ではなくオンラインでの対面開発の方式へと移行したこともプラスに働いた。ジョイゾーは東京に本社を置いていることもあり、首都圏の顧客が多くを占めていたが、オンラインで対面開発するようになってからは「広島や鳥取、岐阜など、これまでだったらなかなか足を運べなかった地域の顧客が増えている」(四宮COO)という。
地方の中小企業向けのIT需要に地場の中小ITベンダーが対応していたのが従来の状態だとすれば、これからは「場所の制約を受けずに、顧客が魅力を感じるITサービスを提供しているベンダーを選ぶ時代になった」と見る。
その逆も然りで、地方に拠点を構えるITベンダーが、kintoneやSaaSを組み合わせた低廉かつ高品質な中小企業向け個別SIサービスをオンラインで提供すれば、大都市圏の顧客の獲得も可能になる。前号「有望市場に変貌する中小向けSI【前編】」でレポートした金沢市に本社を置くSIerのsmoothはまさにこのパターンで、リモートをフル活用して県外の売り上げを伸ばしている。
中小企業向け個別SIは、顧客の課題を的確に解決するSIer本来の能力はもとより、安く、早く稼働させる力量も同時に求められる。ジョイゾーは従業員数約30人の体制で、昨年度はシステム39の手法を軸におよそ200社の個別SIをこなしてきた。うち7割ほどを中小企業の顧客が占める。ジョイゾー自身の人員を増やしつつ、オンラインでの対面開発やエコシステム39を駆使し、最小限の開発で顧客の課題解決に努めることで、今年度の受注高も倍増の勢いを堅持したい考えだ。
大企業並みの二桁の増加率
ジョイゾーやsmoothなど新興のSIerが存在感を増す一方で、もともと全国に販路を持ち、中堅・中小企業市場に強い大手ベンダーである大塚商会も、新興SIerさながらの手法で中小企業向けビジネスを伸ばしている。大塚商会の今年度上期(21年1-6月期)単体売上高を顧客規模別で見ると、年商10億円未満の中小企業向けが前年同期比12.3%増と二桁成長を記録した。年商10億~100億円未満の中堅企業向けの同2.2%増を大幅に上回る伸び率であり、年商100億円以上の大手企業向けの同12.7%増に匹敵する。年商10億円未満の層は、従業員数規模では100人規模が多くを占め、IT投資の規模は決して大きくない。それでも伸びた要因の一つは、ローコードやSaaSを積極的に活用した個別SIの効率化が挙げられる。
同社では、2017年からローコードを活用した「お客様の『これが欲しい!』にこたえる訪問開発サービス」をスタート。オンラインまたは客先に訪問して課題を聞き取り、開発3回で税別36万円、開発5回なら税別50万円の定額制の個別SIサービスである。ローコード開発ツールは大塚商会の「SMILE V 開発ツール」、顧客管理アプリ開発ツール「SMILE V CRM QuickCreator」、kintoneなどから選べる仕様だ。
近年では、同社の中堅・中小企業向け主力ERPの「SMILE」シリーズと、使い勝手のよいSaaSを組み合わせるニーズも増えている。すでにSaaSとして提供されているサービスを積極的に活用しつつ、どうしても個別に開発が必要なケースはローコード開発基盤を使うことで費用と納期を最小限に抑えつつ、「中小企業の課題を的確に解決したり、やりたいことをピンポイントで解決する」(大塚商会の十倉義弘・執行役員業種SI部門長補佐)手法が増えていると指摘する。
自社ERPと他社SaaSを積極連携
長年にわたってウォーターフォール型の開発に従事してきた大塚商会のSEは、仕様書も書かない、明確な検収もない、顧客のやりたいことを聞きいてその場で開発するスタイルに、当初は戸惑いもあったという。だが、大上段に構えて全体最適型で臨むスタイルは、大規模なシステム開発には適していても、中小企業の顧客向けSIには馴染まない。是々非々で課題を解決するほうが「むしろよく顧客ニーズに馴染む」(同)ことが、ここ数年でより明確になった。また、使い勝手のよい有力SaaSがあれば、ERPのSMILEシリーズとの連携を積極的に進めている。例えば、場所や時間の制約を受けずに経費精算をしたいと要望があれば、ラクスのヒット商品である「楽楽精算」と連携。受発注の帳票をオンライン化する場合は、SMILEからコクヨの「@Tovas(アットトバス)」へデータを送り、@Tovasで「オンライン送付」「郵送」「ファックス送信」のいずれかを取引先の要望に応じて選べるようにしている。経費精算系はニーズが多い定番商品となっていることもあり、4種類と連携させている。
大手企業を中心に業務の完全デジタル化、リモートワークを全面的に取り入れた働き方改革、デジタル技術を駆使した新規事業の立ち上げといったDXに向けた動きが活発化している。そうした企業と取引関係にある中小企業にも「必ずDXに取り組む波が押し寄せてくる」(十倉執行役員)と見る。その基盤づくりの一環として、オンラインでの伝票のやりとりからはじまり、オンラインでの商談や協業、オンライン化に伴う情報セキュリティへの対応強化が迫られることになる。
例えば、大手の取引先から帳票類のオンライン化の要望が来れば、ERPと電子署名SaaSを連携させるといった需要喚起が想定される。既存SaaSで対応できないものであれば、ローコード開発で素早くつくる。大企業から来る“DX基盤整備の波”は、デジタル化とあまり接点がなかった中小企業のIT化の底上げにつながる。十倉執行役員は、「デジタル化に不慣れな中小企業であればあるほど、目の前の課題を安く、早く取り除くことがビジネス拡大への近道だ」と話す。
複合機販社が有力プレーヤーに
大塚商会と同様に、全国に拠点を持つ複合機メーカー系の販社も中小企業向け個別SIビジネスで有力プレーヤーになりつつある。業務のデジタル化によるペーパーレス化が進む中、富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)やリコージャパン、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)など複合機販社大手はITソリューション領域への進出を加速させている。コロナ後も都市部を中心にリモートワークが定着すると見られており、オフィスに設置してある複合機のプリントボリュームの減少は大きな懸念材料となっている。その分の売り上げや利益を伸ばす有力な手段としてITソリューションを位置づけるものの、複合機販社は本職のSIerほど個別SIを得意としているわけではない。そのため、販売網とサービス体制のカバレッジの広さを生かし、競争力のある新たな中小企業向けビジネスを確立しようとしている。
富士フイルムBIは、国内外で累計777万ライセンスの販売実績を誇る文書管理ソフト「DocuWorks(ドキュワークス)」を軸に社内外のSaaSと積極的に連携を推進。キヤノンMJグループはこれまで個別SIを行うための“ソリューションコア”としてきたモジュールをSaaS化し、より小規模な事業者でも使いやすいよう導入のハードルを下げている。リコージャパンは長年にわたって研究開発を続けてきた自然言語処理AIをITソリューション事業の特色の一つとして打ち出すなど、複合機販社は自社の強みをよりどころとしたITソリューションを重点的に伸ばす取り組みに力を入れる。
例えば、富士フイルムBIのDocuWorksはここ1年で「CloudSign」など主要な3種類の電子署名サービスに対応するとともに、顧客管理や営業支援の分野でkintoneや「Salesforce」、RPAの「WinActor」とも連携。さらに業務フローを登録できる機能をDocuWorksに実装した。「DocuWorksを軸に社内外の有力SaaSと連携し、顧客企業の業務フローを効率よく回していく支援機能を充実させている」(富士フイルムBIの佐藤禎洋・ソリューション企画グループ長)と、同社の複合機と親和性が高い文書管理を中核としたITソリューションの品揃え拡充を進めている。
中小企業向けSI市場を巡っては、ローコード開発やSaaS組み合わせで急成長する比較的若いSIerや、もともと中小企業に強い大塚商会をはじめとする老舗ベンダー、そして全国に販売ネットワークを張り巡らせる複合機メーカー系販社の三つ巴の様相になっている。技術の進展によって安く、早くシステムを構築できるようになった今、これまで潜在的なIT需要として埋もれていた中小企業市場が一気に拡大する可能性もある。

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中小企業向け個別SIのビジネスは、ローコード開発やSaaSアプリ、内製化支援の組み合わせによって費用や時間をどれだけ抑えられるかが勝負となる。コロナ禍以降はオンラインでの要件の聞き取りや開発、操作指導を行うケースが増え、全国規模でより多くの中小企業の顧客にSIサービスを届けられるようになった。新興SIerや中堅・中小企業に強い老舗SIerに加えて、主要な複合機メーカー系販社もこの領域に力を入れており、三つ巴となったベンダー間の競争も激しさを増しそうだ。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
受注高が前年度比で倍増
サイボウズのローコード開発ツール「kintone」を使って1回2時間、3回の打ち合わせ/開発、予算39万円(税別)で個別SIを完結させる定額制対面開発サービス「システム39」で知られるジョイゾー。コロナ禍の混乱の中にあっても昨年度(2021年9月期)受注高ベースで前年度比倍増で推移した。受注を後押ししたのは、20年11月から始めた他社製のkintoneプラグインなどの設定作業を代行する「エコシステム39」で、帳票出力や集計ツール、工程管理といった機能を追加できる。個別SIをしなくても、他社が開発済みのプラグインを活用することで「より早く、より多くの機能を業務アプリに実装できるようになった」とジョイゾーの四宮琴絵・取締役COOは話す。
主力のシステム39は、仕様書を書かず、持ち帰り開発もせず、原則として対面している時間内に開発を終えるサービスだが、コロナ禍を受け、物理的な対面ではなくオンラインでの対面開発の方式へと移行したこともプラスに働いた。ジョイゾーは東京に本社を置いていることもあり、首都圏の顧客が多くを占めていたが、オンラインで対面開発するようになってからは「広島や鳥取、岐阜など、これまでだったらなかなか足を運べなかった地域の顧客が増えている」(四宮COO)という。
地方の中小企業向けのIT需要に地場の中小ITベンダーが対応していたのが従来の状態だとすれば、これからは「場所の制約を受けずに、顧客が魅力を感じるITサービスを提供しているベンダーを選ぶ時代になった」と見る。
その逆も然りで、地方に拠点を構えるITベンダーが、kintoneやSaaSを組み合わせた低廉かつ高品質な中小企業向け個別SIサービスをオンラインで提供すれば、大都市圏の顧客の獲得も可能になる。前号「有望市場に変貌する中小向けSI【前編】」でレポートした金沢市に本社を置くSIerのsmoothはまさにこのパターンで、リモートをフル活用して県外の売り上げを伸ばしている。
中小企業向け個別SIは、顧客の課題を的確に解決するSIer本来の能力はもとより、安く、早く稼働させる力量も同時に求められる。ジョイゾーは従業員数約30人の体制で、昨年度はシステム39の手法を軸におよそ200社の個別SIをこなしてきた。うち7割ほどを中小企業の顧客が占める。ジョイゾー自身の人員を増やしつつ、オンラインでの対面開発やエコシステム39を駆使し、最小限の開発で顧客の課題解決に努めることで、今年度の受注高も倍増の勢いを堅持したい考えだ。
大企業並みの二桁の増加率
ジョイゾーやsmoothなど新興のSIerが存在感を増す一方で、もともと全国に販路を持ち、中堅・中小企業市場に強い大手ベンダーである大塚商会も、新興SIerさながらの手法で中小企業向けビジネスを伸ばしている。大塚商会の今年度上期(21年1-6月期)単体売上高を顧客規模別で見ると、年商10億円未満の中小企業向けが前年同期比12.3%増と二桁成長を記録した。年商10億~100億円未満の中堅企業向けの同2.2%増を大幅に上回る伸び率であり、年商100億円以上の大手企業向けの同12.7%増に匹敵する。年商10億円未満の層は、従業員数規模では100人規模が多くを占め、IT投資の規模は決して大きくない。それでも伸びた要因の一つは、ローコードやSaaSを積極的に活用した個別SIの効率化が挙げられる。
同社では、2017年からローコードを活用した「お客様の『これが欲しい!』にこたえる訪問開発サービス」をスタート。オンラインまたは客先に訪問して課題を聞き取り、開発3回で税別36万円、開発5回なら税別50万円の定額制の個別SIサービスである。ローコード開発ツールは大塚商会の「SMILE V 開発ツール」、顧客管理アプリ開発ツール「SMILE V CRM QuickCreator」、kintoneなどから選べる仕様だ。
近年では、同社の中堅・中小企業向け主力ERPの「SMILE」シリーズと、使い勝手のよいSaaSを組み合わせるニーズも増えている。すでにSaaSとして提供されているサービスを積極的に活用しつつ、どうしても個別に開発が必要なケースはローコード開発基盤を使うことで費用と納期を最小限に抑えつつ、「中小企業の課題を的確に解決したり、やりたいことをピンポイントで解決する」(大塚商会の十倉義弘・執行役員業種SI部門長補佐)手法が増えていると指摘する。
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- 大塚商会 自社ERPと他社SaaSを積極連携 中小企業の顧客向けSIに変化
- 富士フイルムBI、リコージャパン、キヤノンMJ 複合機販社大手はITソリューション領域への進出を加速
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