旅の蜃気楼

萩を歩く

2004/01/12 15:38

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

▼時代が変わる。その時、目覚まし時計が鳴って、正確に変化の時を知らせる。こんな仕組みだと、実に分かりやすい。現実はそうでなく、1つひとつの出来事を、見聞きするなかで、変化しているのではないか、どうもそうらしいなどと、半信半疑で時の変化を伺いながら、後になって実感することが多い。それでも、時には象徴的な出来事もある。ベルリンの壁の崩壊、天安門事件、NY9.11などがそうだ。誰が見ても、変化を実感する。

▼わが国の大きな時代の変化に明治維新がある。では、どの出来事をもって変化したんだろうか。維新の志士を輩出した山口県・萩の地にそのヒントを求めた。静かなこじんまりした河口にできた三角州の沼地にその街はあった。偉人の生家、松下村塾、萩城下など、じっくり歩いた。萩は見るからに自然の要塞だ。当時の政治経済の中心地、京都や江戸から遠く離れたこの土地で、毛利輝元が築城、初代秀就から始まって13代の毛利家の時代が1600年から約260年、この地に続いた。今、歴史的資産は観光地化していた。街も単なる地方都市で、歴史の旅の気分だった。

▼ところが、1か所は違った。毛利家の初代と偶数の城主のお墓のある大照院(写真の山の麓にある)を訪ねた時だ。こんもりした森の中に7人の城主は眠る。墓石前には家来を配したように灯籠がずらりと並ぶ。風の音の中でひっそり眠る息遣いを聞いたような気がした。驚いた。薄気味悪くも感じた。このお墓はまだ生きている。そうだ、この人たちが、後の吉田松陰を生む萩に学問を260年の間、継続したわけだ。少し佇んだ。時代の変化は瞬発的なものではない。半信半疑でいいんだ。しかし、確実に変化する。(本郷発・笠間 直)
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