旅の蜃気楼

松下はソニー、トヨタを超えたか

2006/02/13 15:38

週刊BCN 2006年02月13日vol.1125掲載

【本郷発】松下電器産業が長い低迷から脱出した。世の中はそう思っていた。そんな上げ潮基調のなかで、石油ストーブ事件が起こった。死者を出した。世の中は松下電器がどんな手を打つのかじっと見守った。企業生命に致命的な負の力が作用する出来事だ。松下電器は一大キャンペーンを打った。負の力の大波を味方にし始めた。ただし、現状の段階においてである。事件を再発させる石油ストーブがまだ残っている。完全な終結宣言を出しにくい状況だ。だが、この事件は松下電器の企業組織をさらに強くする要素を秘めている。

▼こうしたなかプレジデント社が本を出した。──検証と提言「日本的経営」の可能性、松下電器「再生」の論理『The Panasonic Way』──単行本にしては、いささか長いタイトルだ。著者の長田貴仁さんは元プレジデントの副編集長で、現職は母校の神戸大学大学院経営学研究科・助教授だ。ジャーナリストと学者の両方の感性を備えている。物事の見方はフィールド調査を得意としている。人の中を聞きまわることで世の中の風を肌で知ることに長けた人だ。文体はドキュメンタリー調である。読みやすい。著者がもっとも評価している本がある。『松下がソニーを超える日』(大富敬康著)だ。サンマーク出版が2001年に出版した。当時はソニー時代が全盛のころである。仰天の本であった。

▼経営予言者の顔はどこから生まれるのだろうか。著者は種明かしをしている──アンケートでは、人の表情や感情がわからないし、質問された人が忙しさにかまけて適当な答えを用紙に書いてしまう場合が少なくない。つまる所、企業経営を司っているのは人である。人と話すことにより新たな知が生まれる──さらに周辺から得た「草の根」の声も参考にしている。まさに世の中を五感で計測しているといえる。著者はこの本の執筆を通して、トヨタを視野に入れた。「トヨタ自動車よ、松下電器に学べ」と言い切っている。なぜ確信したのか。「社内に驕り高ぶった人が目立つようになってきた。なぜか、そうした人が出世している。筆者もそんなトヨタマンに会ったことがある」。(BCN社長・奥田喜久男)
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