旅の蜃気楼

NY911の地に立って…

2006/05/15 15:38

週刊BCN 2006年05月15日vol.1137掲載

【NY発】国連の国際会議に一度は参加したいと思っていたら、運よく原丈人さんからお誘いがかかった。さっそく出かけた。国連への興味はこうだ。緒方貞子さんのファンだからだ。緒方さんが仕事をしておられる国連はどんなところなのか、国連に出入りしている人の雰囲気に浸りたかったのだ。もちろん観光案内ルートがあるから、国連本部に行けば、誰でも館内は視察できる。そうなんだけど、会議への出席となると、国連の活動に参加している気になって、より深く国連と緒方さんの職場環境を感じられると思ったからだ。

▼ニューヨークは5年ぶりだ。
NY911に遭遇して、その半年後の2002年3月17日のセント・パトリック・デーに再び出かけた。5番街で3時間ほど、グリーン一色のアイルランド系移民のパレードを見た。ただ呆然と見続けた。バグパイプの音色がなんとも、胡弓のような感じで聞こえた。NY911で多くの消防士が殉死した。消防士の多くはアイルランド系移民の人たちと聞いた。だから半年後のセント・パトリック・デーに浸りたかった。NY911の当日、WTCが一瞬、グラッと揺れて、静かに沈んだ。然とした瞬間、ビルを駆け上がる消防士は「全員死んだ」と思って、とても悲しかった。

▼今回の旅は運がよくて、日曜日のマンハッタンを1日中、気ままに過ごせた。さっそくセント・パトリック教会のミサに出かけた。午前中はすばらしいパイプオルガンの演奏がある、とガイドブックに書いてあった。当日はひどい雨だった。(とてもひどい雨なのに、傘を差さずに平然と歩いている人たちがいる。アメリカの風物詩と、僕は思っている。中には乳母車の人もいる。もちろん赤ちゃんもずぶぬれだ。信じられません)。本筋に戻そう。教会の前には消防車が停まっている。中は祈る消防士たちで溢れていた。荘厳な音だ。身体中が音に包まれる。包まれているといつの間にか、心に平安が訪れる。椅子に腰掛ける。座っているうちに、小さな個体としての自分を感じるようになる。たぶん、みんな同じような状態なんだろうな。国連の国際会議では人はさまざまだと感じたのに…。なぜだろう。(BCN社長・奥田喜久男)
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