旅の蜃気楼

忍耐は困難を乗り越えるか!?

2006/06/12 15:38

週刊BCN 2006年06月12日vol.1141掲載

【九重連山発】大分県の九重町では今、大きな吊り橋の建設が進んでいる。今年秋の完成を目指している。長さ390メートル、高さ173メートルで日本一だ。すでにフレームはできている。車は通行できないので、ゆっくり山並みを味わうには絶好の橋だ。来年の夏に出かけてみてはいかがですか。九重町は「ここのえ」と読む。この町のシンボルである九重連山は「くじゅう」と読む。その連山の主峰は久住山と書く。とてもややこしいです。ともかく、この連峰の周囲を巡ると、山が九重に折り重なって見える。昔も今もその名のとおりである。

▼6月上旬はミヤマキリシマが連山の斜面一帯に咲く。ツツジ科で、ピンクの小ぶりな花だ。満開に遭遇すると壮観だ。今週から見ごろになる。6月2日に九重連山を訪ねた。早すぎた。それでも早咲きの花もあって、満開をイメージしながら4つの山頂を踏んで、坊がつるに下山した。アップダウンの山道はどろどろになると、「つるり」と滑る。途中そんな箇所の道端に「一人一石運動」の看板(写真上)が立っている。登山口に石を積んだ山がある。その石をザックに入れて持ち上げ、ぬかるんだ山道に投げておく。気の長い話だ。多くの数の石で整備された道が伸びていた。助かった。大分は「一村一品運動」で名を挙げた県だ。

▼九重町には1849年に木戸銭を取って開業した宿がある。「寒の地獄」温泉だ。冷泉が湧き出る辺りを木枠で囲んだもの。水温は13度。身体を沈める。思わず、「寒い」と叫ぶ。なるほど「寒の地獄」だ。目の前に大きな張り紙がある。「希望は忍耐を生じ、忍耐は困難を乗り越える」。もう少し我慢せよ、ということだ。忍耐の限界はすぐにきた。震えながら出てストーブにあたって暖を取る。身体がすっきりした。地獄の後は極楽だ。親子4人が中心となって温泉宿を切り盛りしている。朝6時、外にある囲炉裏に火が入った。溢れ出た冷泉が目の前を流れている。宿の誕生から160年の時の流れ。なんとも大分とは息の長い考え方をするところだ。見習うべし。(BCN社長・奥田喜久男)
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