旅の蜃気楼

東京よりも上海に近い地

2006/09/04 15:38

週刊BCN 2006年09月04日vol.1152掲載

【長崎発】長崎は今日も雨だった…。

 8月25日夕刻、飛行機が滑走路に降りたとたん、ポツリポツリと窓ガラスに水滴がついた。「雨か、傘を持ってこなかったよな」。バスで空港を出るころになると土砂降り。忙しそうにワイパーが動く。日本全県を旅したいと思ったのが25年前。どういうわけか、縁がなくて、この長崎の訪問で、満願となる。「さて、どこを歩くか」。旅の印象は最初で決まる。

▼めがね橋を見たい。ホテル日航から地図とコンパスを頼りに歩き始める。なるほど、カステラ屋が多い。路面電車の道を越えて繁華街を行く。少し歩くと、左側に古い造りのお寿司屋さんが店先でいなり寿司(好物)を売っている。いなり寿司は全国で形が異なっている。ご当地は、油揚げが裏返っている。さっそく食べてみる。「旨いですね」。このほめ言葉のせいか、「10円、ひいたけんね」と女将。「崇福寺をみて、めがね橋にいったらよかろ」と。次の機会には夜に来て、一杯やりたいものだ、と嬉しく思った。

▼古い街には寺町がある。たいがいその街並みは趣があって心落ち着く。長崎もそうだ。ここの寺町は里山の裾にあって、建物が中腹にせり上がっているから迫力がある。個性的なのは、建物が中国風であることと、仏像が道教的であることだ。台湾のお寺にお参りしているかと錯覚する(中国ではまだお寺参りしたことがない)。長崎は1570年に開港して、中国の文化をもっとも多く取り入れている。今でいう最先端都市だ。その証拠に三菱の創業もこの地。明治維新の舞台設定にも長崎は欠かせない。今はどうかといえば、コラム子の全国行脚の最後の都市が長崎であったことは、現代での時代価値を意味していよう。「長崎の景気はどうですか」。「若いもんがおらんけんね」。こんな会話をタクシーの運転手としていたら、「三菱のお偉いさんが言ってましたが、あと10年もしたら中国の時代になるんですか」と、質問するかのようにしてさとされた。長崎から羽田まで1時間40分。上海までは1時間25分の飛行時間だ。近い。中国の台頭は必至だ。すると長崎の発展も見逃せない。となると、いなり寿司が頻繁に食べられそうだ。(BCN社長・奥田喜久男)
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