旅の蜃気楼

継続を支える「人の助け」

2007/05/28 15:38

週刊BCN 2007年05月28日vol.1188掲載

【本郷発】「そいや、そいや」の掛け声が聞こえると身体が疼く。どうしてこんなに、祭りが好きなんだろうか、と自分でも不思議に思う。幼い頃、神社という環境で育ったからだろうか。なかでも太鼓と神輿が好きだ。太鼓はその響きを聞いていると、自信がわいてくる。神輿は奮い立つ元気の源だ。浅草の三社祭であれば、今か今かと1年間待ち焦がれた担ぎ手たちが神輿の周りにひしめき、「お手を拝借!いよー、おー」で始まる一本締めを決めた瞬間に、神輿がまるで“意志”をもったかの如く頭上にせり上がる。この瞬間に“陶酔”が始まる。祭りは“勢い”と、“けじめ”だ。こうして祭りは多くの人の“意”が結集して長い間、人の世に引き継がれる。すばらしいことだ。

▼こんな形の継続もある。1年に1冊、15年間、物を書き続けた人がいる。それもたった1人で、たったひとつのテーマで書き続けた。これだけで、すばらしいと、思っていた。5月21日、新潮社が主催した講演会で塩野七生の話を聞いた。あまりの感動で、“菩薩”に出会ったような気がした。

 「私ね、2000年前の人たちと会っているでしょ。だから、数年前のことは昨日みたいなのよ」。長いスカート姿で舞台に立つ。「私が15巻、書いてこられたのは皆さん、読者のおかげなの。一つのテーマで15年書き続けるということに応じてくれる出版社を探すことはなかなか難しいことなの。それが第1巻を出したら、予想以上に売れたの。3万部の見込みが9万部。だから、私はその後、このひとつのテーマに専念できたの。これは皆さんのおかげなのよ。だから今年から皆さんにお会いすることにしたの」。

▼塩野七生は16歳でホメロスの『イーリアス』を読み、地中海世界に興味を抱く。『ローマ人の物語』は55歳の時の第1巻に始まり、昨年69歳で第15巻を刊行した。ローマ全史を語った書籍は世界に塩野七生の本だけだ。彼女は今、この本の英文翻訳を進めている。川端康成がノーベル賞を取ったとき、「賞を評価する人は日本語が読めないわけですから、英文翻訳の力が大きかった」と語っている。塩野七生のノーベル賞も期待できそうだ。継続するには人の助けの力が必要である。(BCN社長・奥田喜久男)
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