旅の蜃気楼

元伊勢に古代人の足跡を想う

2008/02/04 15:38

週刊BCN 2008年02月04日vol.1221掲載

【福知山発】(話は前号から続く)地球上には動くものと、動かないものがある。海は動き、山は不動だ。星はその二つを持っている。北極星と北斗七星だ。山の夜はひときわ暗い。だからこそ星が輝く。

▼電車は京都駅を出て、福知山に向かった。嵐山をすぎて、さらに山から山へと分け入っていく。車窓から見える街道沿いの家々は古い。この地は出雲の国と大和の国の通過地点にある。なるほど古いはずだ。電車は福知山盆地に入った。盆地の真ん中を流れる由良川に沿って乗り換えて、さらに北上する。大江駅で支流に入る。そこに、「元伊勢神社」がある。

▼二十歳のころから一度は訪ねてみたいと思っていた神社だ。伊勢神宮の元になった神社、といわれている。福知山から向かうと最初に、「外宮豊受大神社」が迎えてくれる。北に足を延ばすと「猿田彦神社」、さらには「内宮皇大神社」がある。そこから少し歩くと、「天岩戸神社」だ。川の名前は「五十鈴川」。この地は、三重県伊勢市の「伊勢神宮」とまるで同じだ。「元伊勢って、ほんとにあるんだ」。ネットで“元伊勢”を調べた。日本書紀によると、紀元前100年の頃に、天皇家の氏神である天照大神をお祭りする場所を選んで、あちこちを探し回り、2回目に当たるのが福知山のこの地。伊勢に落ち着いたのは27回目だとか。

▼伊勢に鎮座の場所を探したのは、倭姫命(やまとひめのみこと)。垂仁天皇の第四皇女だ。2000年も前の話である。転々としたのは軍事的な意味合いが濃かったのではないか。当時は何を目印にして移動したのだろうか。きっと、地上の動かないもの、すなわち星を目印にしたに違いない。古い神社を地図上に位置を記し、方位を入れると、北極星と線でつながることが多い。紀伊半島の串本から平安京を縦に線を引くと、その延長線上に北極星がある。藤原京あたりから、東に線を延ばすと、伊勢につながる。なんと雄大な世界であることか。

▼元伊勢神社と伊勢神宮の古代に思いをはせながら、人の一生の意味するところは何なのかを考えた。生きる時間というのは何を意味しているのだろうか。(BCN社長・奥田喜久男)
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