旅の蜃気楼

NY911がもたらした“仲間意識”

2008/04/07 15:38

週刊BCN 2008年04月07日vol.1230掲載

【本郷発】嬉しいことがある。それは思いがけない人から、思いがけないお便りを頂いたときのことだ。このコラムがきっかけだ。前々回の本欄で居酒屋『江戸一』を紹介した。それを読んだ方から、「26年前まで池袋に住んでいて、大塚の友達と江戸一によく出かけた」というメールを頂いた。『越乃寒梅』が幻の銘酒といわれていた頃、この店で私が最初に『越乃寒梅』を一杯飲んで、また最後に何気ない顔でそれを注文すると、女将もよく覚えていて、「もう、お飲みになったわよ」と、きっぱり断られたものだ。お酒は『白鷹』の樽を中心に全国から四十数銘柄を常備している。なんといっても、客筋がいい。お酒飲みのプロ集団が集まる“碁会所”みたいなものだから、お互い行儀作法を心得ていて、実に居心地がいいのである。『江戸一』とはこんなお店だ。

▼仲間というのはいいものだ。ひとつの出来事を共有しているから理解が早い。江戸一の記事を懐かしがってメールをくれた方は、ニューヨークで2001年に起きたNY911を現場で一緒に体験した仲間だ。あまりにも強烈な出来事だったものだから、帰国以来、年に2回、定期的に集まっている。お酒を飲みながら近況と体験話を混ぜこぜにしながら、お互いの健康を気遣う会だ。米国行きは社会経済生産性本部が企画した「米国ネット取引・金融IT等ビジネスモデル研究調査団」と称する研修ツアーだった。メンバーは19名。9月9日、マンハッタンに到着し、世界貿易センタービル(WTC)の前をバスで通過して、タイムズスクエアにあるルネッサンス・ホテルに投宿した。翌日から企業訪問の研修が始まった。

▼研修ツアーの一行は名だたる企業の幹部候補生だ。それぞれの思いを抱いて臨んだ。11日の午前9時、バスでウォール街に向けて出発した。五番街の交差点でバスが急停車。前方に、煙が立ちのぼる2棟の高層ビルが…。われわれは身を乗り出して、WTCを見た。その瞬間から一行は“仲間”になった。予期せぬ出来事と遭遇して帰国した仲間はさっそく、メーリングリストを作った。江戸一メールもそのひとつだ。ジェーピー情報センターの岩澤仁さんとは、またひとつ共通の思い出を持った。仲間とはいいものだ。(BCN社長・奥田喜久男)
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