旅の蜃気楼

米軍基地で目の当たりにした“言論の自由”

2008/04/21 15:38

週刊BCN 2008年04月21日vol.1232掲載

【横須賀発】航空母艦キティホークを見に出かけた。5月に横須賀艦隊基地を出港して、そのまま退役する。47歳だ。ニュージャージー州のニューヨーク造船所で起工され、1961年4月29日に就役。ジョン・F・ケネディ大統領に始まり、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争を経験している。その最後の姿を見たいと思った。

▼横須賀駅に降りたのは久しぶりだ。市街を歩きながら、つい最近訪ねたシンガポールより外国の匂いがする、と思った。正確に言えば、アメリカっぽい街だ。そういえば、欧米を旅する時と、アジアを訪ねている時では気分に違いがある。アジアは似たような体型の人だから、肩の力が抜けている。それに比べて、大柄の人の中にいると、緊張している自分を感じることが多い。

▼在日米海軍司令部所属基地は日本に5か所ある。海軍三沢航空施設、厚木海軍航空施設、横須賀艦隊基地、佐世保艦隊基地、沖縄艦隊基地だ。横須賀の規模が最も大きい。米軍家族7130人、米軍属730人、米軍人1万1940人と2008年4月12日の資料にある。横須賀艦隊基地は第7艦隊司令部がある。アジアにおけるその存在は大きい。今回のタクシー運転手殺人事件は不幸な出来事だ。基地を訪ねるのがこの事件の後であっただけに、航空母艦を見ること以上に、基地側の対応に神経を集中させた。どんな対応をするのだろうか。基地の責任者はこの事件に正面から言及した。基地訪問の同行者から、質問が発された。「殺人犯の軍人は米国籍ではないが、米国の軍人採用の条件はなにか。軍人の教育はどうしているのか」といった実に的確な内容であった。基地の責任者は丁寧に実に誠実にその質問に応じた。その光景に感動した。なぜならば、その質問は私もしたかったが、控えたからだ。質疑応答の演者は、実に見事なまでに言論の自由を演じて見せてくれた。なぜ私は質問を控えたのだろうか。それは横須賀基地の訪問は航空母艦キティホークを訪ねることが目的なのだから、相手が嫌がるような質問は控えようという気持ちが働いたからだ。この考えは間違いだった。正しく対応することの大切さを改めて知った。(BCN社長・奥田喜久男)
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