旅の蜃気楼

まだ雪に抱かれる「立山」に登る

2008/06/02 15:38

週刊BCN 2008年06月02日vol.1237掲載

【立山発】特別に好きな山がある。富山県の立山だ。初めて雪の立山に登ったのは15年前。今年もまた訪れた。立山の5月初めはまだまだ白銀の世界だ。室堂のバスセンターから一歩外に出ると、一面の雪景色が出迎えてくれる。「わっ、まぶしい」。思わず目をしばたく。少し歩くと立山が見える。「美しいな」と見とれてしまう。雷鳥沢までのアップダウンを歩く間に、羽がすっかり黒くなった雷鳥と出会った。途中、硫黄の臭いが強い場所を通過する。長時間休むと身体に悪そうだ。やっと雷鳥沢について、テントを張る。「ふー」と一息ついて、ぐるっと見渡す。360度、真っ白だ。ここには太陽が2つある。上からと下からだ。こんがり過ぎる焼け方になるから、要注意。

▼立山には「立山」という名の頂はない。立山は3つの頂を総称する。雷鳥沢から見て右から神社のある雄山、大汝山、富士ノ折立と続く。夏道は岩場の尾根がゆるやかに続いている感じだ。早起きできるなら、雄山から見る朝日は一段とすがすがしい。さらに歩くと右側に剣岳が姿を見せる。峻烈な山だ。昔の人はこのあたり一帯を地獄といった。もう少し先に目をやると、奥大日岳、大日岳と続く。ちょうど地獄の中心に大日如来が位置する。地獄に仏なんだろうか、そう考えると面白い。

▼立山連峰のなかでも奥大日岳が、いちばん好きだ。雪山に登るには少し経験が要る。慣れたころが一番危ないといわれているので、慎重に登った。単独行だった。アイゼン、ピッケル、サングラス。防寒を確認して、雷鳥沢のテントを出た。空はピーカンだ。最高に幸せな気分になる。が、目の前にある雷鳥坂を見上げると、思わずため息がでるほどの長い急坂だ。一歩一歩登ることになる。2時間ほどかけて剣御前小舎にたどり着く。ここで一息入れて、奥大日岳に向かう。およそ4時間で頂上に到着。はるか前方に三角錐の山が2つ見える。その中間あたりに仏像の立つ蓮華の台座のように平らな場所がある。地図を見ると、その位置の辺りに三俣蓮華岳がある。雲ノ平のところだ。右に見える三角錐は笠ケ岳、左は槍ヶ岳。あたかも日光菩薩、月光菩薩のようだ。不思議だ。いつ誰が、こんな名前をつけたのだろうか。以来、立山は特別な山になった。(BCN社長・奥田喜久男)
  • 1