旅の蜃気楼

雨の日曜日、地下鉄で旅気分

2008/07/07 15:38

週刊BCN 2008年07月07日vol.1242掲載

【銀座発】6月29日、雨の日曜日。山に行く予定なし。旅に行く予定なし。なんともつまらない。家の前にあるケヤキやイチョウの葉っぱは風に揺れ、雨に濡れそぼっている。雨の“谷根千”は、いつも以上におっとりしている。そうだ!街中はきっと出歩く人も少ないだろう。都心散策に出かけてみよう。まずは14日に開通したばかりの副都心線に乗ってみる。和光市から渋谷の間、20 ㎞余りを結ぶ地下鉄だ。

▼池袋駅で乗車、雑司が谷、西早稲田、東新宿、新宿三丁目、北参道、明治神宮前、あっという間に渋谷駅。近い。駅舎がきれいだ。改札口から地上に出てみた。雨なのに相変わらず人が多い。人の多いのは苦手だから、早々に銀座線に乗る。目指すは人のあまりいないところで、わくわくと楽しいところ。この線は最も古い地下鉄だ。「浅草行」なのがいい。最近の電車は埼玉県とか神奈川県とか千葉県とかの関東近県にまで接続しているのが多い。いつか銀座線も延長するのだろうか。

▼銀座で下車。目指すは文房具の殿堂・銀座「伊東屋」だ。案の定、館内は人の数が少ない。それでも何人かは同好の士らしき人がいる。展示品を舐めるように見ている。あたかも自分の持ち物のようにためつすがめつしているから、文具好きはすぐわかる。それでいて、買うのは珍しいボールペンか、ブルーブラックのインク壷ぐらいだ。万年筆のコーナーが広くなっている。「いつ変わったんですか。えっ 去年の8月?」。そんなにご無沙汰だったかな。月日が経つのは早いものだ。文具三昧の1日は飽きることがない。お便りのコーナーと世界のメモ帳にはわくわくする。旅の記録をメモする楽しさは格別だ。人の歩くテンポが速いとか、町の匂いが生臭いとか、たわいのない事柄が多い。山であれば疲れ果てて小屋に帰ってから、少し長い文章で思いつくままを記しておく。銀座「伊東屋」は旅の匂いがぷんぷんする。今回はモンブランの替え芯太字のBとペットボトルを提げる小道具を買った。文具三昧の1日で金1700円ナリ。これは入場料みたいなものだ。旅はいいなぁ…。雨の日に、ひねもすのたりのたりかな。(BCN社長・奥田喜久男)
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