▼2001年9月11日、ニューヨーク。「同時多発テロ」による旅客機の衝突で崩壊し始めたワールドトレードセンターの西側ビルに、あるITシステム担当者が決死の突入を敢行した。自社データセンター(DC)からテープドライブなどを回収するためだ。命からがら出てきた1時間後、そのビルは崩壊。間一髪で顧客情報の8割を無事に“救出”した甲斐があって、彼の会社は1週間後、業務再開に漕ぎつけることができた。

▼この会社とは先週、実質的に破綻した米大手証券会社のリーマン・ブラザーズだ。テロ発生から2年後に取材した際、当時のニューヨーク本社の幹部は、これだけの大事件にもかかわらず「この程度の災害は、想定範囲内」と言ってのけた。わが国では、ライブドアによるニッポン放送買収劇で同社が一躍有名になったものだった。

▼リーマン・ブラザーズのDCは後に新設したニューヨーク市内の2か所へ分散された。安全度は「テロリストが持ち運べる程度の核兵器が市内で爆発しても壊れない」ほど強固。「ディザスタ・リカバリ(災害復旧)」の備えは万全だったはず。しかしながら、安全なのはITシステムだけで、実ビジネスが内部崩壊していたことは「想定外」だったようだ。ITは戦略的な経営に生かされて初めて費用対効果がプラスに転じる。正直、これほどITシステムに長けた企業が先読みできずに転落したことには驚いた。システム障害が多い日本の金融機関も対岸の火事とせずに警戒感を持つべきだ。