旅の蜃気楼

酒と神社と神頼み

2009/01/26 15:38

週刊BCN 2009年01月26日vol.1269掲載

【本郷発】年明け2日に還暦を迎えた。いろいろな人が祝ってくれた。多くの人に、「還暦を迎えたら何か変わりましたか」と聞かれた。以前、同じ質問をしていた自分がいたことに気づいた。今回は聞かれる側になった。「還暦を迎えて何か変わりましたか」の問いに「好き嫌いをはっきり示すようになりました」と答える。年を取ると人間が丸くなるといわれるが、どうもそうではないようだ。

▼好きな作家に田辺聖子さんがいる。以前、山の上ホテルの地下1階の廊下の角で、思わず衝突しそうになった時、とても小柄な方なので、ぶつかったら壊れちゃうんじゃないかと心配した瞬間の感情が、自分でとても好きだからだ。その時から、にわかファンになった。その後は田辺さんのエッセーに出会うと目を通している。お酒の話が多い。それが旨そうに書いてあるものだから、知らぬ間に、その影響を受けて地酒の純米酒を好むようになってしまった。

▼愛知県北設楽郡にある蔵元・関谷醸造の『空(くう)』を年末に飲んだ。旨かった。山形県の『十四代』もいろんな種類を味わった。福井県の『黒龍』も飲んだ。旨かった。まだまだあるが、出し惜しみしながら記そう。文章の流れとしては熱燗のほうが絵になるが、僕は常温好みだ。口に含めば、「つっー」と喉を越えて五臓六腑にしみ込んでいく。少し時間を置いてから、頭の中がフラッとする。この気分がなんともいえず好きだ。九州にもしっかりした味の日本酒を造る蔵元がある。八女市の高橋商店だ。『繁桝』という旨い酒を造っている。とっておきで紹介したいのは灘の酒『白鷹』。特別仕立てがある。伊勢神宮にしか納めないお神酒が一般に頒布されている。これを新年に頂いて1年の健康を祈るのだが、つい呑みすぎてしまう。ここで都合の良いお守りがあります。京都・嵐山の麓にお酒の神様で有名な松尾大社がある。この神社に『服酒御守』があります。これをもっていると、二日酔いになりません。還暦は本厄だ。経済縮小もある。今年はいろいろ、神頼みが増えそうだ。神社はこんな時のためにある。(BCN社長・奥田喜久男)
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