旅の蜃気楼

山彦、房総の海彦となる

2009/11/12 15:38

週刊BCN 2009年11月09日vol.1308掲載

【南房総発】釣り糸を海に垂れる。こう書くと、何とも長閑な様子が伝わってくる。ところが、その日は台風17号襲来の前日で、館山近くの海は“浪高し”である。釣り船から海に、錘のついた釣り糸を投入する。錘は結構な重さだ。「ドボーン」と意外に大きな音を立てる。魚群探知機を見ると、水深34メートル。釣り鉤はその辺りの魚を狙っている。どんな魚がいるのやら。鯵を釣りに行ったのだから、まずは鯵を思い描く。小さな鯵、大きな鯵。釣れたら刺身にして食べようか、それとも一夜干しにして食べようか。

▼毎週、山の旅を続けているのに、今回はどうしたことか海に来ている。人の趣味はさまざまで、登山、魚釣り、ゴルフがトップスリーではないか。このコラムに登場するのは山の話題が多い。ところが、この原稿を編集してコラムに仕立て上げる編集者は、魚釣りのプロだ。趣味は山と海で正反対だが、年齢は数週間の違いで同い年だ。今年の1月に、二人して還暦を迎えた。「お互いに還暦ですね。“あらかん”旅行でもしますか」と、あいなった。もちろん、山へ行くか海へ行くかの綱引きはあったが、その相棒は腰痛持ちだ。やむなく、海の旅となった。

▼海となれば魚釣りだ。釣り船を一艘仕立てることになった。魚釣りを趣味にする人は多い。社内で希望者を募ったら、紅一点の5人編成となった。千葉県君津駅で集合。車2台で、館山近くの砂浜に向かった。小雨の降るなか、バーベキューを楽しむ。砂浜で投げ釣りをするが、釣果なし。食後に移動。小さな港の堤防から釣り糸を垂れる。小魚が数匹釣れる。なんと楽しいことか。翌日は船釣りだ。鯵釣りを目指す。船に乗り込む。「ブルルーン、バリバリバリ」。身震いして船が動き出す。釣れなくとも、船旅だけでも満足だ。海から見る山並みは、日頃見慣れない山容だけに、新鮮だ。船は大揺れ。5時間ほど揺られながらも、2匹の鯛を釣った。これで“あらかん”の旅は目的は果たした。鯛さん、ありがとう。(BCN社長・奥田喜久男)

小雨の海辺も、また楽し
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