BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『世界を知る力 日本創生編 』

2011/10/13 15:27

週刊BCN 2011年10月10日vol.1402掲載

 東日本大震災と原発事故によって日本が直面する苦難の重さを思うとき、天を仰ぎ見る思いで、「なぜこうなったか」「どうすれば克服できるか」と、この試練の意味を考え込まざるを得ない──。かつてこの欄で紹介した『世界を知る力』の著者は、大災害に見舞われた日本(人)の精神の復興と物質的な復興について持論を展開する。

 まずは、日本人の魂の基軸とは何かを説く。ここに登場するのが親鸞である。「日本がひっくり返ったともいえる鎌倉時代に、現世の地獄を目の当たりにしながら、根底的に新しい生き方を提示した親鸞の生きざまを深く噛み締めることは、日本創生を語る上で、遠回りのようでいて、意味のある作業だと思えるのである」と、親鸞を引き合いに出す理由を述べている。最澄との比較など、親鸞の人物像や教えについて本書ではかなりの紙幅を割いているが、要約すれば、魂の基軸とは「簡単にはくじけないもの」であると定義している。

 本書の後半では、「日本創生の目指すべき方向性」を示唆する。「逆説的なようだが、わたしは、日本の第一次産業の近未来モデルは、最大の困難に直面した東北地方から誕生すると考えている」。実際に汗水流して働く人たちに高付加価値が還元されるようにすべきで、「生産から加工・販売まで、株式会社方式でシステム統合し、地元への公正な利益還元が実現できたとき、東北地方の第一次産業は再生される」と断じる。

 歯切れのよい論調には、強い説得力がある。(止水)


『世界を知る力 日本創生編 』
寺島実郎 著 PHP研究所 刊(720円+税)
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