旅の蜃気楼

釜山のディープゾーンで意気投合

2012/01/26 19:47

週刊BCN 2012年01月23日vol.1416掲載

【釜山発】窓から店の中を覗いてみた。真正面の小さな四角いテーブルに先客が二人。眞露(JINRO)の小瓶が数本と、ビール瓶が2本並んでいる。背を向けて座っている人のほうが若い。コップを口に運んだ人は私と同世代に見える。赤い顔をして楽しそうに話をしている。「よし! この店に入ろう」。

▼釜山の下町にある狭い食堂だ。「こんにちは」と声をかけながら入ったら、店の中の人がいっせいに私を振り向いた。「マッコリ、ありますか」とたずねたら、「ない」(というような返事)。この店にはあるはずだ、言葉が通じなかったと思って、もう一度「マッコリ」と言って、テーブルについた。女主人が店主ふうの男の人に、何かを言って店の外に出した。

▼女主人は、私と同世代の先客を指差した。その人は「どこから来たの」と日本語で話しかけてきた。今度はこちらがびっくりする番だ。「東京です。マッコリはありますか」「今、買いに行ったよ」「この店にはマッコリを置いてないんですか」「前の客が全部飲んだからね」。ようやく事情が呑み込めた。使いに出ていた店主がペットボトルに入ったマッコリを2本、テーブルに置いた。女主人はコップと先の丸いスプーンと銀色の箸を置いた。小魚のムニエルのようなものが4尾とおつまみが数皿出てきた。一杯飲んで、豆もやしに箸をつけた。うまい。

▼通訳してくれた男性客が、私に話しかけてきた。生まれは神奈川県の川崎市で小学校の頃は腕白坊主。私より3歳年長で、30歳の時に釜山に来た。市場で日本に魚を輸出する仕事をしている。「妹はまだ日本に住んでいるよ」と嬉しそうだ。通訳のお礼を述べたら「いやこちらこそ、久しぶりに日本語を話したからね」。この後、盛り上がって、二人でハシゴをした。釜山の思い出は格別だ。(BCN社長・奥田喜久男)

本場の下町料理はどれもこれもうまい
  • 1

関連記事

釜山港へ帰るのではなく行ってみた

韓国の“勢い”をこの目で見た