旅の蜃気楼

暑いお盆のちょっと寒い話

2012/08/30 15:38

週刊BCN 2012年08月27日vol.1445掲載

【内神田発】暑い暑い。所によっては豪雨に見舞われた夏だったが、朝夕は少しずつ秋の匂いが漂い始めた。過ごしやすくなるお盆過ぎの明け方に、ここ数年、総天然色の夢を見ている。昨夜の夢がそれだった。いずれも“死”に関する内容なので、目覚めは重い。しかも、かなりリアルなので、気味が悪い。

▼夢見がちな坊主の明恵上人(鎌倉時代の僧)であれば、「何のこれしき」とばかりに突き放せるのだろうが、小心者はそうはいかない。「何か起きるのだろうか」と考え込んで目が覚める。それでも毎年続くと、あの世の方々と会えるのもいいものだ、と思い始めている。とはいえ、会いたい人を指名できないので、この点を考えながら夢を見ようと思っている。

▼そういえば、20代の頃に不思議な体験をした。いつもの出勤の道すがら、民家の玄関に老人が立って、もの憂げに景色を見ていた。通り過ぎて、ふっと死を感じた。その人が数日後に亡くなったことを知って以来、できるだけ考えないようにしている。最近は、電車の人身事故を聞くと、何だか他人事ではないような気がする。それには理由がある。会社を創業して10年を過ぎた頃だと記憶している。仕事先の方から「神田駅のホームで深刻な顔をしていましたね」。その人は向かいのホームから私を見ていたという。その言葉にドキッとした経験があるからだ。

▼お盆の暑い日に池袋を歩いていたら、立ち食い蕎麦屋の入口に貼り紙があった。「休業なのか」と思った。「本日をもって閉店いたします。イチローが新天地を求めて移籍したように、私も新天地を求め、さすらいます。永い間ご愛顧頂き、誠に有難うございました。では さらば!!」。なかなか粋な店主もいるものだ。やはり人生は捨てたものじゃない。さあ仕事、仕事。(BCN社長・奥田喜久男)

粋な「閉店のお知らせ」に、思わずカメラを向けてしまった
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