BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「超」入門 学問のすすめ』

2013/04/18 15:27

週刊BCN 2013年04月15日vol.1477掲載

 立花隆の『天皇と東大』(文藝春秋社)によれば、江戸幕末期の日本の教育水準は非常に高く、すでに識字率はヨーロッパと同じレベルだったという。これを支えたのが寺子屋であり、藩校であり、私塾だった。慶應義塾の創設者である福澤諭吉が明治5~9年(1872~76年)に著した『学問のすすめ』が大ベストセラーになった素地は、この高い教育水準にあったといえる。福沢諭吉が学問を修め、国民教育の土台づくりに奔走したのは、幕末から明治維新にかけての激動の時代。これと混迷する現代とを重ね合わせ、『学問のすすめ』から個人と国家が時代を生き抜く術を学ぶのが、本書の眼目である。著者は、前作では『失敗の本質』(中央公論社)をモチーフに敗戦(失敗)と高度経済成長(成功)とを照らし合わせ、現代の閉塞感を打ち破る方法を描いてみせたが、本書ではそれを幕末と明治維新で行っている。

 『学問のすすめ』から著者が学ぶ「成功の本質」は、「変革に必要な意識」「実学の重要性」「変革期に生き残るスキル」「人生戦略」「アタマの使い方」「変革のサイクル」「未来の創造」の七つ。例えば「実学」では、「一身独立して一国独立する」を引きながら、まず個人の人生を変革するためには、学ぶ対象を「自分の付加価値を高めるもの」「社会を新しい視点で理解できるもの」にすることが必要だと説く。そして現代の閉塞感の正体を、社会や世界にあるチャンスが目に映らない「虚学」ばかりを学び続けてきたからだと指摘する。底本の『学問のすすめ』(岩波文庫)を傍らに置き、ゆっくりと読み進めたい一冊だ。(叢虎)


『「超」入門 学問のすすめ』
鈴木 博毅 著
ダイヤモンド社 刊(1500円+税)
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