BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『キャリアポルノは人生の無駄だ』

2013/07/18 15:27

週刊BCN 2013年07月15日vol.1489掲載

 書店の平台に並ぶ自己啓発のための書籍。そのうちの何冊かは、毎年ベストセラーの一角に入ってくる売れ筋の分野だ。著者はそれらを「キャリアポルノ」と名づけた。もちろん、揶揄を込めての呼称である。

 「キャリアポルノ」は、英語圏でよく使われる「フードポルノ」に由来する。ウェブサイトや雑誌などのメディアに掲載されている豪華でおいしそうに見える食べ物を、つくったり、食べたりすることを目的に見るのではなく、ただ眺め、あるいは読んで満足を得る。行動を伴わない娯楽、食べることの代償行為として眺めるのである。自己啓発書もまた同じ。実践と努力がなければ手に入らないものを、読むという行為で何となくわかったような、手に入るような気にさせてしまう。しかし、そこには成功のノウハウや要因のすべてが書かれているわけではない。ましてや、読者はその本の著者とは違う個性をもった人間なのだ。だから、しばらくたっても成功は手に入らない。そして、読者は別の満足を得るために新しい自己啓発書を手に取る──これの繰り返しだというのだ。

 著者はまた、自己啓発書を「ドラッグと同じ」と指摘する。本を読んでいる間は「何とかなるかも知れない」と一時的な安心感と高揚感を得られるが、本質は何も改善されない。しかも、依存性がある。

 単なる批判の書ではない。「キャリアポルノ」はアメリカと日本に多く、ヨーロッパには少ないという事実を、労働観の違いから解き明かしていく「働き方の指南書」でもある。(叢虎)


『キャリアポルノは人生の無駄だ』
谷本 真由美 著
朝日新聞出版 刊(760円+税)
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