【チベット発】新しい20年が始まりました。10月5日、伊勢神宮・外宮の遷御(せんぎょ)の儀に奉拝してまいりました。3600人の方々が、5日の午後8時から始まる遷宮の儀に備えて、午後5時には定位置に着き、およそ4時間の儀式を静かに見守りました。遷御は、神域内のすべての明かりを消して真っ暗闇の中で執り行われました。といっても、曇り空のおかげで街の明かりが雲に反射して神殿の姿はうっすらと見え、あとは五感で儀式の足音と気配を感じながら気分は1300年前に遡りました。遷御はあまりにも大きな儀式なだけに、心の中で少し寝かせてから記したいと思っています。まずはその前に、つい先ごろ旅をした拉薩(ラサ)について記します。

▼一度はラサにあるチベット仏教の総本山「ポタラ宮」を訪ねたい、と思っていた。ようやく念願がかなって、9月27日から10月1日にかけて訪ねた。今の気分は、美味しいものをたらふく食べて、大きく膨れ上がったお腹をさすりながら満腹感に浸っている状態だ。ラサは高地の街だから、高山病は通過儀礼でもある。覚悟はしていたが、非常につらい2日間を過ごした。お酒呑みには、この気分を伝えやすいと思う。あの最悪な二日酔い状態だ。頭痛に吐き気、歩くとからだが揺らぎ、水を飲むのが精一杯だ。私はその道の修行が長く、たぶん免許皆伝の一歩手前だろうから、うまくコントロールできたほうだと思う。「どうだ」と自慢することではありませんがね。

▼ラサは海抜3650m。富士山の海抜は3776mだから、126m低い。あまり変わらない高さなのに、この高地にはピンクや薄青のコスモスが路肩に咲き乱れている。富士山の山頂付近にコスモスが咲いていたら、風情はどうなることか。「あ、コスモスだ~。日本と同じ花だ」と、思わず声が出る。見慣れている花なので、親近感を覚える。何だかうれしくなる。車窓に秋を感じながら、ラサ市内に向かう。ラサはどんな街なのだろうか。意外に都会かも、いや田舎なのだろうとか、携帯は使えるのか、もしかするとポタラ宮でWi-Fiが使えるかもしれない。

▼ラサ空港から唯一の高速道路をぶっ飛ばす。街に着くまでの110㎞の道のりは山また山、真っ青な空が近くて海抜1000mそこそこに見える山も、ラサでは5000m級だ。あちらの山こちらの山をキョロキョロするうちに、あっという間に街についた。驚くなかれ、ここは都市機能をすべて備えた小さな地方都市なのだ。やはり実際に来て見るべきだ。ガイドブックや観光DVDでは味わえない街の風情がある。街を見回しながら、「この街にポタラ宮がある」と思うと喜びが湧いてきた。

▼中国には、東京と同規模の街が20都市ある。どのような街なのか、自分の目で直接見たくて、2010年3月からそれらの街を訪ねはじめた。その年の9月には故・邱永漢さんの旅にも同行した。その時、成都で反日デモに遭遇した。大丈夫かなと懸念したが、公安の配慮で、イトーヨーカドーが入居しているビルの大家である邱永漢事務所を訪ねることができた。この旅で、邱先生から日本における中国市場の重要性を学んだ。

▼旅から帰って、BCNは中国事業に着手することを決めた。さらに気になる地方も歩いて、全中国内で36都市を回った。そのおかげで頭の中には中国の地勢図が入った。翌2011年には中国事業推進室をつくり、今年、上海に現地法人の比世闻(上海)信息咨询有限公司を設立した。総経理は伊達和久です。上海にお出かけの折には、ぜひお立ち寄りください。ラサの旅は、私にとって中国に事業を展開するにあたっての中間決算のようなものだ。

▼ラサでは、シェラトンホテルに泊まった。中庭のあるこざっぱりした佇まいだ。庭に出て見上げると、真っ青な空が清々しい。初日はテンションが上がっていることもあって元気だった。けれども、夜から高山病が始まり、2日間は苦痛が続いた。3日目になるとからだは復活し、9月29日、念願のポタラ宮に向かう。ポタラ宮は中腹から街を見下ろしている。

▼堂々とした建物は白い壁と鉄色の壁が天に聳える。おやっ!? この鉄色は何かに似ているぞ。そうだ! 楽天カラーだ。これが写真で何度となく見たポタラ宮だ。高さ117m、13階建ての宮殿だ。12階まで上がることができる。屋内は仏像がひしめき、狭い通路がくねくねと続いていて、暗い。バターの灯火があちこちの仏像の前で赤く燃えている。それに線香の匂いが混じって、頭がクラクラする。これがライブで味わう異文化の醍醐味だ。屋内の見学は1時間と決められている。何しろ海抜が高くて空気が薄い。高地トレーニングのさわりを感じた。つらい、くさい、苦しい。これがポタラ宮の印象だ。

▼この原稿は遷御の儀式で伊勢に向かう車中で書き始めて、10月9日にやっと着地できそうだ。
(BCN会長・奥田喜久男)

2013年10月9日記


ラサの街角で見かけた犬

ポタラ宮は天空の城でもある

抜けるように青い空とポタラ宮の白い壁のコントラストが美しい