旅の蜃気楼

シルクロードの起点の街で

2007/10/08 15:38

週刊BCN 2007年10月08日vol.1206掲載

【西安発】中国最西端の街・カシュガルを訪ねたのは、もう1年前になる。飽きるほど続く砂漠の光景。ようやくたどり着いたオアシスの街に漂う異文化の匂い。植物の色も、ロバの足音もすべてが五感にすり込まれている。実に新鮮な記憶だ。新疆ウイグル自治区は中国だとはいっても沿岸部に感じる中国文化はない。イスラムの匂いを放つ中央アジアの文化圏だ。山脈を越えるとタジキスタン、道はさらに続いてローマへと伸びる。これをシルクロードという。心は時空を超えて古代を彷徨う。

▼西安はシルクロードの起点である。秦の始皇帝の墳墓がある街。兵馬俑で有名だ。9月下旬に訪れた西安には世界中の人が集まっていた。城壁で囲まれた碁盤の目状の街は京都、奈良の原型だ。朱雀門から北に向けて歩く。門をくぐるとすぐ左に、UCC上島珈琲のレストランがある。ソファーがゆったりして、雰囲気がいい。さらに歩くと、西大路の大きな道にぶつかる。デパートを通り抜けると、突然、狭い道になる。異国の匂いがする。どこかでかいだ匂いだぞ。そうだ、カシュガルだ。道の両側には食糧・雑貨・衣類の店、食堂などがずらりと並ぶ。行き交う人でごった返し、肩がぶつかりそうになる。東京のアメ横の光景だ。肉屋に人が並んでいる。イスラム教徒用に、お祈りをして屠殺した肉を売っているのだ。日曜日のきょうは、夕食にご馳走を作るのかな。

▼イスラム街を縫って歩くと、お寺に出た。清真大寺。清真とはイスラムを表す言葉だ。といっても、建物の造りはお寺なので、不思議な感じだ。真っ暗い本堂をじっと見ると、奥にメッカを遥拝する切れ込みがある。床には絨毯が何列も敷いてある。ここは間違いなくモスクだ。創建は742年。唐は744年にウイグルを支配し、現在は自治区となって、中央アジアとの間を緩衝するテトラポットとなっている。漢民族を取り囲むようにして周囲の国との間を自治区が緩衝役を果たしている。チベットは1965年に自治区になった。が、現在も紛争が続く。古代から現在まで中国の時代は生き続けている。毛沢東は秦の始皇帝と並んで、未来の歴史に刻まれるかもしれない。歴史に終焉はない。(BCN社長・奥田喜久男)
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