BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『メディアの苦悩』28人の証言

2014/06/05 15:27

週刊BCN 2014年06月02日vol.1532掲載

メディアのあり方を問う

 ずいぶん前に、『メディアの興亡』(杉山隆男著)という単行本を読んだことがある。大新聞社の内幕を、綿密な取材にもとづいて描写したドキュメントに、思わず引き込まれたものだった。だが、メディアといっても、その当時と今とでは様相が大きく異なってきている。紙メディアとテレビ、ラジオは衰退の道をたどり、ネットメディアが隆盛になっている(と思われている)。では、ネットメディアが我が世の春を謳歌しているかといえば、どうもそうではないようだ。

 この本は、メディアのキーパーソン28人との対話をもとにそれぞれが抱える課題を浮き彫りにし、将来像を描こうとしている。

 まずは一般紙。「デジタルをやるだけで朝日新聞が生き残れるとは思っていない」と発言するのは、朝日新聞社代表取締役社長の木村伊量氏だ。ジャーナリズムの使命を果たすためには紙とデジタルのベストミックスを探していくしかないと結論づける。一方、ネットはどうか。アジャイルメディア・ネットワーク取締役の徳力基彦氏は、「日本のネット企業は、社会性がおざなりになっているケースが多いように感じる」という。ネットが、アングラな場所と定義づけられたまま力を失っていくのか。それとも、もう一段上に行けるのか。広告費のシェアは上がっているかもしれないが、社会的地位はほとんど上がっていない、と断じる。

 本紙の読者が、広告主として、また一人の読者(視聴者)として、メディアが抱える問題点を知る手がかりになる本だ。(仁多)


『メディアの苦悩』
28人の証言
長澤秀行 編著
光文社 刊(820円+税)
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