BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『デジタルは人間を奪うのか』

2014/11/13 15:27

週刊BCN 2014年11月10日vol.1554掲載

情報化社会のトレンドと課題を把握

 人間にとって究極に便利な社会とは何か。働かなくていい、勉強しなくていい、富は公平に分配され、衣食住に困ることもない。死ぬまで好きなことをして過ごす。あらゆる労働は、ロボットに任せればいい。働くことが好きな人だけが働く。金儲けに価値はない。勉強をしなくても、情報端末に聞けば、なんでも教えてくれる。勉強が好きな人だけ勉強をすればいい。労働も勉強も、スポーツや旅行のように、もはや趣味でしかないのだ。

 「それが本当に幸せか」と誰もが問いたくなるところで、本書である。どんどん便利になっていく社会に対し、警鐘を鳴らすのが目的だろうとタイトルから想像した。実際、冒頭で「デジタルがもたらす恩恵の背後にある違和感の正体を追い、人間とデジタルの向き合い方を模索する」としている。ところが、読み進めていくと、情報化社会の現状がうまくまとめられていることに気づく。ウェアラブルコンピュータ、仮想現実、人工知能、オープンガバメントなど、書かれているのは情報化社会のトレンドとその課題である。奇をてらった内容ではなく、一つひとつのトレンドを確認しながら読み進めることができる。資料性も備えているので、数年後に読み返すのもいいだろう。

 ところで、デジタルは人間を奪うのだろうか。筆者の答えはこうだ。「人間とデジタルの関係はその分岐点にある。僕は、デジタルが人間を奪うかもしれないという気色の悪さ、不気味さこそが、デジタルが持つ可能性の証だと考えている」。(亭)


『デジタルは人間を奪うのか』
小川和也 著
講談社 刊(740円+税)
  • 1

関連記事

<BOOK REVIEW>『ワーク・シフト』

<BOOK REVIEW>『職場の人間科学』