海を学べば、人間社会が分かる

 世界人口の半数以上は海岸線から100km以内に居住しているといわれ、今後沿岸部への集中はさらに加速するという。食料、資源、工作機械、自動車など、モノの移動では現在も海上輸送が重要な役割を果たしている。香港やシンガポールに見られるように、海運が生んだ莫大な富は、金融センターを形成した。グローバルなデータ通信の大部分は光海底ケーブルを経由しており、情報の道もやはり海にある。モノ・カネ・情報、そして人は全て海に集中している。

 本書は自然、政治、宗教、文化、軍事、経済、環境、そしてテクノロジーなどあらゆる面から、人類の歩みそのものである海の歴史を包括的にまとめた野心作だ。人類の生命は海に強く依存しているにもかかわらず、ほとんどの人はそれに気付くことなく、海を破壊すらしている。著者は最終章で海を救うために何が必要かを説くが、本書はエコロジー啓蒙書ではない。海の歴史を知ることは、文明史をひもとく作業であり、人類の未来を見通したいと考える者にとって、海ほど適した分析対象はほかにない。(螺)
 

『海の歴史』
ジャック・アタリ 著
林 昌宏 訳
プレジデント社 刊(2300円+税)